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「ごめん、大丈夫。具合悪そうにしていたほうがいいかなって思っただけ。どうもない」
「痴漢じゃないのか?」
「……分からない」
どういうわけか、円は痴漢の被害にあうことが多々あった。とはいえ、服の上から軽く撫でられる程度の被害で、大抵は次の駅で一旦降りて車輛を変わることで終わる。痴漢を許せるわけではないけれど、いちいち腹を立てていたら円が消耗するばかりだ。程度の軽いものならさっさと忘れてしまうほうが精神衛生上いい。
「分からないってことは、少しは思い当たるんだな? くそ……ちゃんと最初から傍に立ってればよかった」
城築は造りの整った顔を苦渋で歪ませた。眉間に寄せられた皺さえも男らしく、格好がいい。
「……昔から、俺の行動が遅いせいで倉橋のこと守ってやれない」
心底悔しそうに城築は言葉を吐く。
――そっか。あのこと、まだ気にしてくれてたんだ。
昔と城築が悔いたのは、円たちが出会って間もない頃のことだった。
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