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「なに、飲みます?」
メニューを見やすいように体が寄せられる。触れ合わずともその体温を感じたせいで、身体が勝手に意識を始める。ベンチシートには区切りがなく、簡単に距離が埋まった。
「えっと……西森くんは?」
「とりあえずビールで。円さん、お酒弱いんでしたっけ」
「ふつう、だと思う」
普段は特に飲まないだけで、二時間の飲み会に付き合えるくらいには飲める。炭酸はあまり得意ではないが、最初だからと西森に合わせて円もビールを頼んだ。
「じゃあ、ふたりのデートに乾杯」
「……乾杯」
デートという言葉を取り消したい気持ちがないわけではないけれど、再び否定するというのも意識過剰を露呈してしまう気がして、円は言葉を飲んだ。ガチっと触れ合ったグラスを口につけると、緊張を吹き飛ばすために半分ほど飲み干した。
「おお、いい飲みっぷり」
円を称える西森は、同じグラスを三分の二ほど開けている。
「西森くんこそ……」
「俺のは照れ隠しっていうか……ちょっと上がってるのを落ち着かせようと思って」
円と同じような理由で西森もグラスを煽ったことを知らされ、勝手に頬が赤らむ。
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