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第1章
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普段と変わらず一時間ほど残業した倉橋円は、通用口から一歩踏み出し足を止める。陽が地平線に落ちる少し手前の、黒の景色に薄く灯る橙色が好きだ。影絵のようなその景色に見とれていると、「円さん」と声が掛かった。
「お疲れさま」
「……お疲れさま。早かったんだ」
「うん。円さんが待っててくれると思ったら、めちゃくちゃ頑張れた」
二メートルも離れたらその姿を見つけるのすら困難になる逢魔が時。近づいてきた西森の人懐っこい笑顔を見て、円はほっと安心すると同時に胸に僅かな緊張を灯す。
「ごめん。もう少し早く出たら良かった」
「いいの、いいの。俺、人を待つのって全然苦じゃないんだよね。しかも、やあっと円さんと食事に行けると思ったら、待ち時間だってデートのうちっていうか」
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