21日

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私は残業をしていた。 冬樹統一郎との関わりで精神状態が掻き乱され、仕事のペースが大幅に遅れている。 他の人が尻拭いをしているからだ、と冬樹統一郎に言った以上、私は同僚や部下にヘルプを出せない。 そして仕事が終わらないまま翌日に持ち越す事も許されないのだ。 法的には何ら問題無いけれど、翌日出社して、さあ、昨日の仕事の残りをやってしまおうか、では示しが付かない。 勿論、法的には何ら問題無いのだけれど。 案外、冬樹統一郎ならあっけらかんとやってのけるかも知れない。 いや、そもそも彼は声を荒げたりするのだろうか? 目の前の仕事に没頭しなければならないというのに、頭は考える必要のない冬樹統一郎について思考を重ねる。 気が付けばオフィスにいるのは私と冬樹統一郎だけ。 大きな口を叩いておきながら、叱責した冬樹統一郎と同じ仕事のペース。 嫌になる。 自分も、他人も、何もかも。 ようやく仕事が終わり、オフィスを出る。 終電は発車していた。 最悪だ。 「あれ?雪野先輩」 声がした。 嫌な予感がして、逡巡した末に振り返ると冬樹統一郎がいる。 予感的中。 偉そうな口を叩いておいて、残業して、終電を逃す。 格好悪すぎる。 「どうしたんですか?こんなとこに突っ立って」 言葉に棘が有る気がした。 いや、冬樹統一郎は常にこんな口調か。 何にせよ、彼の言葉は私をチクリと突き刺す。 「別に?少し考え事をしていただけよ」 私は澄まして答える。 「あっ、そっか。終電逃したんですね」 冬樹統一郎は私のカモフラージュをあっさりと暴く。 仕返しか?でも、彼は誰にでもこんな感じか。 敬意も悪意も持っていない。 「僕のアパート、来ます?」 冬樹統一郎の言葉に、私は耳を疑う。 「え?」 「泊まる場所、有りますよ」 私には彼の表情も、真意も読めない。 「……どうしてそんな事を言うの?」 安易にイエスかノーを出すべきでは無い。 提案に乗ったら、嘘でした、言いふらします、では困る。 断ったら、なに意識してんだよ、オバサン、て思われるかも知れない。そして断った場合でも好き勝手言いふらされるかも知れない。 いや、冬樹統一郎はそういった種類の人間とは違う気がする。 そもそも私、誰の事も理解できていないのではないだろうか。 自分の事も。 「実はですね、ついこの間、知り合いから良い物を貰ったんですよ。特別に見せてあげます」
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