21日

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暗澹たる感情を胸に秘めながらも私は出社した。 独り身だから、尚更サボる訳にはいかない。 私を守ってくれるのは私だけなのだから。 満員電車に揺られながら、意識は茫漠としていた。 何かを考えるのに適した状況では無い。 こんなに人がいるのに、相変わらず私は孤独。 オフィス・ビルに到着したが、躊躇してしまう。 それでも地面を蹴って歩き出す。 「おはよう。雪野さん」 同僚の立松裕也(たてまつゆうや)が挨拶をしてきた。 「おはよう。立松さん」 私は笑顔を作って挨拶を返す。クリスマスが近付いているから落ち込んでいるなんて格好悪い。それを悟られない為に明るく振る舞う。 挨拶を返すと私も立松くんも会話を続けずに自分のデスクへと向かった。 立松くんの左手の薬指にキラリと光る結婚指輪が私を一段と落ち込ませる。 別に立松くんと結婚したかった訳じゃない。 それでもクリスマス・シーズンに見かける結婚指輪はボディ・ブローのように重い一撃を喰らわせた。ボディ・ブロー、喰らったこと無いけど。 気分を落ち着かせる為にトイレの前に行くと、後輩の女子社員たちがクリスマスの予定について話し合っているのが漏れ聞こえた。 「私は彼氏とディナーの予定だけど、紗里奈は?」 「私は合コン。三対三で医者のタマゴと」 「へぇ~、良いじゃん」 ドアを開けコツコツと私がヒールの音を鳴らして入ると、彼女たちはピタリと会話を止めた。 「雪野さんおはようございます~」 と、私を恐ろしげに見ながら挨拶をしてくる。 「おはよう」 名前も呼ばずに私は挨拶を返す。 恐ろしげにしながらも彼女たちの表情や声色、仕草に潜む、私への憐れみや侮蔑を感じ取った。 どうせなら、お局さまとして恐怖で支配出来たなら良かったのだけれど、私はそれすらも出来ていない。 私は個室に入り、鍵を閉める。 彼女たちはヒソヒソと上擦った声で話し合いながらトイレを出て行った。 ドアがバタンと閉まると、外から笑い声が上がる。 会社は働いて給料を貰う為に有るのだから、余計なお喋りなどしなければ良いのに。
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