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冬樹統一郎(ふゆきとういちろう)は絵に描いたようなゆとり世代だ。
入社一年目。
仕事に対する意欲も無いし、積極性も無い。
ゆとり世代と言われて堪るか!と言う負けん気など見せやしない。
むしろ怠慢の免罪符として「僕、ゆとり世代なんで」なんて言いやがる。
容姿が良いので入社当初は女性社員からチヤホヤされていたが、私生活を趣味に費やしている彼は次第に恋愛対象から外されていった。
草食系男子とも言われたが、そもそも恋愛に興味が有るかも怪しい。
キラキラ・ネームでは無いのが唯一の救いだろうか。
ともあれ、私は冬樹統一郎の纏めた資料に目を通していた。
椅子に座る私がデスク越しに冬樹統一郎をチラリと見上げると、彼は気だるそうに虚空を眺めている。
自分の纏めた資料がどう評価されるかなど、全く気にならないらしい。
「冬樹くん」
私は彼の名を呼ぶ。
しかし冬樹統一郎は心ここにあらずと言った感じで、返事どころか反応すらしない。
「冬樹くん!」
腹から声を出して怒鳴り気味に彼を呼ぶと、ようやく冬樹統一郎は私の方を見た。
「なんですか?」
怒られて怯え気味に返事をすると言った風では全くない。
それどころか鬱陶しそうに返事をしやがる。
「あなたの纏めた資料、間違いが散見されるわね」
「三件?三つも有るんですか?」
「その三件じゃないわよ!間違いだらけだって言ってんの!あなた何しに会社に来てるの!?」
私は声を荒げてしまう。
「なにしにって、給料貰いに、ですかねえ?」
自分の事なのに、疑問形で応える。私はイライラする。
「給料貰いに来てるんじゃなくって働きに来てるんでしょうが!」
「えっ、雪野先輩は給料貰えなくても良いんですか?」
「そうじゃなくてね!?しっかり働かないと給料貰えないの!!」
「なら僕、しっかり働いてますね。入社してから毎月給料貰ってるんで」
冬樹統一郎があっけらかんと答えると、周囲の社員はクスクスと笑う。
バンッ!!!
「他の人がアンタの尻拭いをしてるからでしょうがっ!!!」
罵声と共に、私は手のひらでデスクを強く叩き付けた。
その声と音にオフィスは静まり返る。
しまった、やってしまった。
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