第一章

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第一章

――俺にとって、スターと呼べるのは、アイドルの雪野真白、ただ一人だ。  朝倉颯太は、ラジオをヘッドホンで聞きながら、駅構内を歩いていた。混雑した改札もめざとく一番空いている場所を見つけ、人ごみをすり抜けるようにして歩く。  上京して丸二年がたち、どこからどうみても田舎出身の学生に見えないくらいには、東京という街に染まってきたように思う。  平日の十一時半という、通勤時間には遅く、お昼には早い時間にもかかわらず、東京ソラマチの最寄駅である東京スカイツリー駅は混雑していた。  自分の横を、歓声をあげながら急ぎ足で通り過ぎていく若い女性の後ろ姿を見送る。おそらく彼女たちは颯太が向かっている場所と一緒なのだろう。最近、外見だけで自分と同じ趣味の『仲間』は判別できるようになった。 「ねぇ、展望室は絶対に行こうよ!」  はしゃいだ女性の声が、耳に流れるラジオの音声よりも大きく、颯太は思わず、その方向に顏を向ける。金髪の長い髪をなびかせ、初夏にはまだ早いというのに足を露出した皮のショートパンツにキャミソールという格好の女性が、隣を歩く背の高い男に、絡まるように腕を組んで、高いヒールのサンダルを鳴らしながら歩いていた。ソラマチといえば、観光地でもありデートスポットでもある。恋人同士で訪れてもおかしくはない。  二人が颯太を追い抜いた瞬間、隣の男がちらりと振り返る。颯太が、あれ、と思った瞬間にすでに二人は先を歩いていた。黒のジャケットに白いタンクトップ、濃いインディゴのデニムに身を包んだその男の顔に見覚えがあった。 ――あいつ、同じ大学にいたような気がする。  名前までは思い出せないが、話したこともなく、授業で一緒になった程度だろう。あの整った顏立ちは、一度見たら忘れない。そして間違いなく颯太とは住む世界の違う人種だ。それでも、彼らと自分は、目的は違っても同じ場所に向かっているのだ。  聞いていたラジオ番組は、徐々に終盤へ近づいている。颯太は、十三時からのゴールデンラジオの公開生放送を観覧するために、ソラマチにあるサテライトスタジオに向かっていた。
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