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仲間の中で、たまたま颯太が男だっただけだ。彼女たちが颯太を恋愛対象として見ていないのと同じように、颯太も彼女たちを恋愛対象に考えたことがない。だからこそ、平衡関係が保たれているのではないかと思う。あえて声高には言わないが、颯太は、男女間には友情が成り立つと考えている。男女が並んで歩いていれば、すぐに恋愛対象、性的対象と考える奴らの方がナンセンスだと思っているくらいだ。
「そんなことより見たか? ドルメイトのサイトに握手会の告知が来てたぜ」
「え? マジで? やった! ……きゃっ」
飛び跳ねた智美は、後ろにいた人影にぶつかった。その女性は、智美に接触した腕を撫でていた。女性は清潔感のある白いブラウスに淡いピンクのフレアスカート、ゆるやかな黒髪をサイドでまとめ、小脇にバンドで束ねた教科書を持ち、小さめのハンドバッグを肩からかけている。清楚な女性だった。
「ごめんなさい!」
「いえ、大丈夫です」
謝る智美に、女性は足を止めたが、気にしていない様子で軽く頭を下げた。隣にいたらしい背の高い男が、女性の様子を伺っている。その男の顔に、颯太は思わず、あっと小さく声をあげた。彼は、朝、スカイツリー駅で見かけた女性連れの男だった。二人はそのまま、肩を並べて歩き出した。それにしても、朝、男の隣にいた派手な女性とは、似ても似つかない。
「美男美女っていうのは、ああいうのを言うんだね」
智美が二人の後ろ姿を見つめながら、腕を組んで頷く。
「隣にいた人ってミス法学部の人だよね? 三田村くん、本当にモテるなぁ」
「三田村……?」
颯太が呟けば、英子が知らないの? と首をかしげる。「理学部の三田村恒星。私たちと同じ学年だけど、かなりの有名人よ」
「いつも隣に歩いている女が違うってことで、有名なんだけどね。まぁ、モデル並みにイケメンだし、無理もないけど」
なるほど、それで朝も隣に歩いている女性が違っていたのか、と納得する。
「でも三田村くんって告白は断らないって聞いたことある。智美も、どう?」
「うーん、いくらイケメンでも私のタイプじゃないんだよね。真白に付き合ってって言われたら考えるけど」
「わかる!」
女性特有の、現実とアイドルをごちゃまぜにする会話を聞き流す。ときどき、颯太がいても下ネタが飛び交うこともあり、そんなとき、自分はつくづく男として見られていないのだと苦笑いするのだ。
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