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第二章
翌日、颯太は必死でノートに向かってボールペンを走らせていた。提出する予定になっていた英語のレポートをすっかり忘れていて、授業が始まるまでの時間に勝負をかけていた。
「あと五分だよ」
「頑張れー」
「おう! あと少し!」
英子と智美が声をかける。二人は昨日の夕方、終わらせたらしく、颯太にゆるい声援を送っていた。
「隣、いい?」
隣の席にグレーのトートバックが置かれたのに気づき、颯太はどうぞ、と顏を見上げ、その声の主に驚いた。
「三田村……」
「おはよ。レポート?」
「あ、ああ」
驚いたのは颯太だけじゃなかった。英子と智美まで、ぽかんと口を開けてこっちを見ている。驚くのも無理はない。昨日まで他人で、決して関わることのなかった三田村恒星が、颯太にフレンドリーに話しかけてきたのだから。
「あ、こいつ、俺と……」
バイト先に三田村が来たことを二人に話してなかったことに気づき、説明しようとした途端に始業のベルが鳴り、颯太は頭を抱えて、あーっ! と叫んだ。
「助かった……」
生徒のレポート詰めた紙袋を下げた教授が教室から出ていくところを見守って、颯太がひと息ついた。
「邪魔したよな? 悪かった」
隣の三田村が申し訳なさそうな顔をする。
「忘れてた俺が悪いんだ。気にすんな」
「間に合ってよかったな」
「いや、それにしてもさ……」
「ん?」
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