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目の前にある兄が描いた絵。
その場所は確かに私が描いたのと同じ神社。
だけど主役だと思っていた神社はすみっこの方に描かれていた。
「……これは絵の実力やない、モデルが良かったんや」
「あほか!調子に乗るな」
漸く喉から出た言葉に、兄が否定をした。
兄の絵。
タイトルは『神社と妹』
山に囲まれて薄暗い神社。
その中央には、肩からパンダの顔型ポシェットをかけ、白い花柄のワンピースに身を包み、木漏れ日の照明を受け、笑顔で『ケン・ケン・パー』をしている私が描かれていた。
「やけど兄ちゃん、ようこんな絵を描けたな~」
「……瑞希がちょろまかしとって邪魔やっただけや」
感心している母に、兄がボソリと答えている。
その顔は未だ耳まで赤い。
「記念写真撮るよー」
この時に母の目が潤んでいたなんて知らなかったよ。
この日、母が撮った写真は2枚。
すっかり機嫌を良くし、ダブルピースの笑顔な私と、絵を見られて恥ずかしがり仏頂面の兄。
大きくなって手を繋ぐことがなくなっていた兄と妹が久しぶりに手を繋いで歩く後ろ姿。
アルバムに挟まれた2枚の写真のページコメントには『二人の絵画コンクール』と書かれていたよ。
────『受賞を夢見て』。
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