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空を飛んでツリーの周りをグルグル回りながら美瑛と律子は実況。しかし、どこか美瑛は上の空といった様子で。
「……ちょっと美瑛、どうしたの?」
律子は一旦マイクのスイッチを切り、美瑛に話し掛ける。
「え……な、何か間違った、私」
「そうじゃなくてさぁ、さっきからアドリブの返しが適当すぎるって話よ。話続かない返し方されても困るじゃない」
「ご、ごめんなさい……」
「まぁ、昨日の今日じゃ仕方ないとも思うけど」
昨日の刃との一件以来、美瑛を取り巻く環境は変わった。
まずネットでは批判の嵐。清楚なイメージを持たれていた美瑛にフッと沸いた恋人報道はネットの海を沸騰させるのには充分にホットな話題だった。
『数年前から付き合ってた』とか『IーGで男から言い寄った』とか『騙されてる』などといった憶測が飛び交うが、昨日の今日でPGPの司会を変えるわけにもいかず、そのまま続行することになったのだが。
「私たちはアイドルじゃないにしても、そういうイメージとは付き合っていかなきゃいけない人種なんだから気を付けなきゃ。そのくらいわかってたでしょうに」
「だ、だからあれは誤解なのよ! 別に私達は何も──」
「何かなくても『何かあったことにされちゃう』のが問題だって言ってるのよ」
「……!」
その一言に返すことができず、美瑛は俯いて考える。確かに律子の言うことは正しい。
今までは男の子と出掛けること自体にも抵抗があったのは確かだし、それが必然的に予防にもなっていた。
しかし刃とのことはまた別だ。彼のことはまだ自身の胸中でも整理しきれていないこと。一筋縄でいくことではない。
「……まぁ、今はお仕事に集中しなさいよ。そうすりゃ気も紛れるわ」
「……ありがとう、律子」
「ほんと、手のかかる同僚をもったもんよ……『さぁ、先頭に飛び出したのは、やはり今回の注目選手の1人、風間翔矢選手と神舘凪選手だ! 息のあったコンビネーションは見事ですね!』」
そう小さく呟くと、律子はマイクのスイッチを入れ直して実況に戻る。
そうだ、律子の言う通り、まずは仕事に集中しよう。それから、これからのことをしっかり考えよう。
自分がこれからどうしたいのか、どうすればいいのか。すぐに答えが出るとは思えないが。
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