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「おぉ、2人とも来よったか」
「翔矢!? もう大丈夫なのか!?」
刃が美瑛と一緒に戻ると、翔矢がこっちに手を振っていた。
翔矢は見つかった時に燈気欠乏症で倒れていたから、即病院行きだと思っていたが……。
「いやー、亮ちゃんに面倒見てもらったらすっかり良うなってな。救急員の人からも大丈夫やろって言われたから後で一緒に行くことになってん」
「なら良かったけどな」
「燈気が足りないなら、私のをいくらでもやるからな! 言ってくれ!」
「ありがとな、凪ちゃん」
刃がそのやり取りに安堵して周りを見回すと、まだほとんどの奴が戻っておらず、流斗と亮、翔矢と凪、蓮というメンツしかいなかった。
「他の皆は?」
「もう個人で病院に行ったり、鎧亜なんか勝手に帰ったらしいで」
「アイツらしいって言ったら、らしいけど……」
「皆さん」
と、そこにやってきたのは、
「ユウさんに、クズネさん!」
「あー、ダルかった。ウチはああいうの大っ嫌いやのに」
「クズネさん。しっかりしてください。貴女が今回の責任者にあたるんですから」
ユウの指摘に、はぁー、とデカいため息をつくクズネ。どうやら相当にお疲れらしい。
「……まぁ、えぇわ。なぁ、あんた」
「……へ?」
「それと、あんた」
「……?」
クズネが指を差して呼びつけたのは、三条亮と東蓮だった。
「な、何でしょうか、クズネさん」
「何でしょうかって、忘れたんか? ウチと光ちゃんが昨日した賭け」
「賭け……あっ!?」
思い出した。昨日のデパートの屋上で、『誰かが1人でも辿り着けなければ、光を住み込みで連れていく』という内容だったはずだ。
色々な事があって、すっかり頭から抜け落ちていた。
「……それで、私達に、何か言いたいんですか」
「あぁ。もちろん」
そうして、クズネは2人の前に立ち、
「……すまんかった!」
「「……え?」」
真っ直ぐに頭を下げて謝罪した。
「いやー、あん時はダメダメの腰抜けやと思っとったのに、意外とガッツあったやないか! アンタらもなかなか気に入ったで!」
「は、はぁ……」
亮の肩を叩いて上機嫌な様子のクズネ。なんだか分からないが、どうやら光がこの地を離れる事態は避けられたらしい。
「……しかし、あんたもなかなかやるやないか。ちょっと見直したで」
「え? 私……ですか?」
中でも亮のことはべた褒めだ。いったいなぜ?
「あの、私そんなに褒められるようなことは……」
「何言ってるんや。あんな度胸あるやつはなかなかおらんで」
「度胸?」
「ほれ、あれや」
刃達はそう言ってクズネが指差す先を見る。
「「な、な、な……!?」」
そこにあったのは、今回のPGPの実況や映像を配信するための大画面。そこには無人カメラが自動的に盛り上がるハイライトを映す仕組みになっている。
つまり、無人カメラが納めた映像の中で客観的に見てテレビの視聴率が取れる映像が自動で流れる、という意味で……。
──流れていたのは、刃と亮のキスシーン。それも、何度も何度も。
「いやー。あんな社会的に死ぬようなこと、ウチには出来んからなぁ。若さってやつやろか?」
もはや亮は顔を青くしたり赤くしたり、まるで信号機のように顔色がコロコロ変わり、刃も似たようなものだった。
「これは……」
「……さすがに、なぁ」
「「……い、いやああああああああああ!!!」」
その2人の絶叫は、鈍色の空にただ響くのみで。
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