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「……」
蓮は自室のベッドで大好きなテーディベアの人形を抱き締めながら、電気もつけずにゴロゴロと寝っ転がっていた。
思い出すのは先日の後夜祭。刃とのキス。自分にとって初めての、キス。ファーストキス、口づけ、接吻。
「……っ!」
思わず足をバタバタして真っ赤になった顔を人形に埋め、体をくねらせて悶える。
しちゃった、とうとうしてしまった。自分は刃と、キスしたんだ。
「……刃」
思い出しただけでも心臓がはち切れそうだ。幸せが心を満たしている。こんな感覚は生まれてはじめてだ。
あの後、刃は放心状態だったし蓮も恥ずかしくて何も話せなかった。その結果、踊った後は言葉もなく解散したのだ。
話したい。もっと近づきたい。一緒にいたい。そんな思いが次から次へと湧いてくる。
「……でも」
わかってる。きっと刃は困っているだろう。それでも、なんとか振り向いてもらう方法を考えても蓮にはこんなことしか思い付かなかった。
固定された現状に皹を入れるには、こんな方法しかなかった。もう戻れない、もう進むしかない、それは間違いなかったのだが。
「……どうすればいいんだろう、ここから」
その先なんて全く考えていなかった。
ある意味、キスとは最終手段。現状を変えるためには仕方なかったとはいえ、切り札を切ってしまった以上、蓮にはこれ以上どうしていいかわからなかった。
「……蓮様、どうかいたしましたか?」
と、ドアの向こうから声がかかる。
「……クルト、ごめん、なんでもないよ」
「そうでございましたか。この前お帰りになってから様子がおかしかったので気になって。ですが大丈夫なら何よりです。こちらに蓮様宛の便りを置いておきます」
「……ありがとう」
ドアの隙間からいくつかのチラシらしきものを滑り込ませて気配が消える。
自分の身の回りの世話をしてくれる人間として数週間前から家にきたクルト。蓮もとても助かっているが、やはりまだ壁を感じる。
「……はぁ」
悩んでても仕方ない。とにかく何かしら行動しなくては。そうでなければまた光に負けてしまう。
蓮はベッドから飛び起きると、クルトが持ってきてくれたチラシを拾った。
「……え?」
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