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光は、人を待つといった経験をあまりしたことがない。
普段であれば用事があれば自分から赴いてしまうし、時間も10分前には着いていれば良いと思うため結構約束の時間ギリギリであったりする。それが距離にして数メートルしか離れていない隣の刃の家であったなら尚更だ。
「……」
しかし、そんな光が刃の家の前で、しかもこの朝の寒空の中でかれこれ30分も呼び鈴も鳴らさずに待っているのには訳がある。
「……大丈夫、だよね。おかしく、ないよね」
手に持ったチラシを見ながら思わず独り言を呟いた。その誰に言うでもない言葉は白い息となって宙へ消えていく。
誘う理由は色々と考えてきた。このクリスマスイブに行われる『プレゼントギフトパーティー』、通称『PGP』という企画は16歳以上の人間から参加可能のイベント。だから刃達も去年までは出られなかったが、今回は違う。
故にせっかくだし出てみたいだとか、思い出作りだとか、理由はいくらだって立てられる。全く不自然じゃない。
「……よし!」
覚悟を決めて時計を見る。時刻は7時50分。いつも通りなら刃がもう家を出る時間だ。これなら大丈夫──
「……あ、あれ? 光ちゃん?」
「!?」
突然のかかった声に、光は思わずチラシを隠して声の主を見た。
「りょ、亮? どうしたのこんな朝早くに」
友達の三条亮だった。確か彼女の家はこちらではなかったはず。
「えっ!? いや、その、えっと……」
何か手の持っていたものを急いで後ろへ回して明後日の方向を向く。何か用事だろうか。
「どうしたの? 何か急ぎの用事?」
「えっ!? う、うん。ちょっと刃君に用事が──」
「……あれ?」
と、亮の後ろから別の声がかかる。
「亮? それに光?」
「「れ、蓮!?」」
東蓮。なぜか彼女までここに集まってきた。
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