プロローグ

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 今朝の桜ヶ峰町の朝は寒かった。もうすぐ季節も12月。外も凍えるような寒さが肌を突き刺す季節になってきた。 「……」 「……」  しかしながら、このリビングを凍らせる空気は決して外の寒さが原因ではない。それだけは火野刃(かの じん)はわかっていた。  炊きたてであるはずのご飯すらも冷たく感じる始末。必死に音をたてて暖かい空気を送ってくれるエアコンも、今は茶碗を箸で叩く音と共に悲しく響くだけ。 「あ、あのー、光さん?」 「……」  なんとか笑顔を作って対面に座る彼女、大門寺光(だいもんじ ひかり)に声をかけるも華麗にスルー。 『……パパ、ママ、けんか?』 「ううん、そんなんじゃないわよ藍、心配しないで」  かと思えば、光の隣に座って行儀よくご飯を食べる少女、火野藍(かの あい)には自然な態度と笑顔で接する。  突然空から降ってきて、ただの幼馴染みである刃と光のことを『パパ、ママ』と呼ぶ彼女との生活も早半年以上が過ぎ、この状態にも割と慣れてきたのに、今は全く別の問題が発生していた。 「……ごちそうさま。それじゃあね」 「ま、待てって光!」  と、そそくさと帰ろうとする光を思わず呼び止める。 「(お、おい光! 何か怒ってるみたいだけど、せめて藍の前では自然に──)」 「……はぁ!? 誰が怒ってるって!? 別に私が怒ることなんかないじゃない! 勝手に怒ってるって決めつけないでくれる!?」 「怒ってるじゃねぇか!」  どっからどう見てもお(かんむり)だ。いつから、なんてのは刃でもわかっている。 「そ、その……あれは、だな。急に来たから今でも整理ついてなくて……」  それは間違いなく、先日の桜咲祭(おうえさい)の後夜祭にて刃達とI'temの祭典『IーG(アイグランプリ)』を共に戦った戦友、東蓮(ひがし れん)とのキスであった。  あれから1週間が経つが、光はずっとこんな感じで機嫌が直ることはない。  刃だって突然の告白に頭がついていかず、未だに返事は返せていない状態なのだ。 「……はぁ? あれってなんのことかなー、私わかんないなー、なんの話かなー?」 「い、いや、だからその……蓮との、さ」 「あぁ蓮とのキス! あったわねそんなこと! でもそれで私がなんで機嫌悪くならなきゃいけないのかしら?」  
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