第14話 ノワール

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「……『ノワール』?」 「そっ。亮なんてのより、いい名前でしょ?」 「よくもカナを! 丸男!」 「オッケー!」  空に丸男をぶん投げると、丸まって高速回転を始め、 「『弐紋字・落岩(ガンフォール)』!」  そのままノワールに向けて落ちていく。丸男のその全力を、 ──ズン! 「!?」 「君は身体は美味しそうだけど、燈気はあんまりだなぁ」  片手だけで受け止めていた。あの細い腕のどこにそんな力が── 「はい、彼氏返すよ」 ──ブン! 「えっ、きゃあ!?」 「ぎゃあ!」  考える間もなく律子に向けて投げ返されて、そのまま激突。 「律子、丸男君!」 「さて、次は」  ゾクッと背中を悪寒が走り、美瑛は後ろを振り向くと、 「つーかまえた♪」 「グッ!?」  ノワールに首根っこを掴まれて身動きが取れない。掴まれた腕を剥がそうとするが、ビクともしない。 「さて、お姉ちゃんからも頂くだけ頂いてから、殺してあげるよ」 「させるかぁ! 『弐紋字・斬撃(ざんげき)』!」  美瑛を巻き込まないように刀身にのみ燈気を集中した刃の渾身の一撃を、 ──パシッ! 「……!?」 「さーんねん」  片手だけで防がれた。それほどに遠い、この実力差。  この感覚、覚えがある。羅刹天。あの化け物と対峙した時と一緒だ。 「……あれ? 絶望してくれた?」 「……っ!」  頭を振って今の考えを払拭する。諦めてたまるか。コイツをこのままにしておいたら、皆殺される。なんとか止めなければ、なんとか! 「まだまだ甘いな、火野刃」  と、どこからか声がした。 「その紋字は、こう撃つんだよ」  殺気。ノワールは初めてそれを敵と認識し、その場から逃げた。 「『弐紋字・斬撃(ざんげき)』!」  ノワールが腕を離すと、ブンと空を切り強烈な一撃がその場を通り過ぎる。 「……よく覚えておけ」 「凪!!!」  特待生、神舘凪。彼女は自身の太刀を構えてノワールの前に立ち塞がる。トナカイ達が動きを停止したことで、こっちの助太刀に来れたらしい。  その隙に亮は落ちかけた刃と美瑛を抱えあげる。 「大丈夫、お姉ちゃん!」 「ゲホッ、ゲホッ! う、うん。ありがとう、亮、凪」 「……下がっていろ。コイツは私が倒す」 「倒せるの? あなた、1度自分に負けてるくせに」  ノワールは亮と記憶を共有している。ということは、あの羅刹天の事件を知っている。  あの自分の闇に1度負けた過去がある凪。そこから崩せるとノワールは目論んだのだが。 「……あぁ、そうだな」 「……?」 「私は1度、私に負けている。だがそれは、私が1人で戦おうとしたからだ」  凪は胸に手を置いて思い出す。ここ数ヶ月にあった出来事を。  翔矢と出会ったこと、美瑛や里沙と出会ったこと、SNSのメンバーとのこと。 「……今は1人ではない。私には仲間が、なにより翔矢がいる。お前ごときに負ける理由はない」 「……気に食わないな、その顔」  心底信じているという瞳。それが気に食わなかった。 「……なら、この空で私にどれだけ戦えるか、試してみる?」  いくら燈気を利用した舞空術があるとはいえ、自由自在に飛び回れる翼とでは差があることは事実。勝てる道理などない、ノワールはそう考えていた。 「……あら、空があなたの専売特許だとでも?」 「!?」  その声と背後からの殺気。ノワールが振り向くと、そこには、 「チッ!」  雲の巨人が腕を振り上げ、こちらに叩きつけようとしている。  ノワールは手を前にかざして迎え撃つ。 「『翼激(ガル・ウイング)』!」 「「『雲人(クラウディマン)』!」」  結果は相打ち。その散った雲の巨人の部分になにやら小さな影が4つ。 「……皆様、遅くなりましたわ」 「無事でございますか?」 「ふぇぇ……怖かったですぅ!」 「美瑛、凪、大丈夫!?」 「ルチル、マリル! 立花に里沙も!」  今回は完全に別行動していたルチル、マリルペアと、ペアがいないため組んでいた里沙&立花組が合流した。
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