第14話 ノワール

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「ここらにいる気絶したトナカイ達は私たちが下に運びます! だから気にせず戦ってくださいまし!」 「……助かる」  これで万が一は無くなった。凪は真っ直ぐに刀を向けてノワールを見据える。  もう大丈夫。誰もが、そう考えていた。 「……さて、お縄につく時が来たようやな、怪盗」 「……ふむ」  特待生が全員集合な上にクズネも力を封じてもここまで強かった。意外とそれ以外もしぶとい。想定外だ。  怪盗は少し考えて、手を打った。 「……わかりました。ここは私達の負けを認めて退きましょう」 「退かせると思うんか? あんた達はまとめて豚箱にぶち込んだる」 「えぇ。ですから、こうしましょう」  パチンと指を鳴らすと、何やら嫌な感覚が辺りを埋め尽くす。 「……な、なんやと!?」  意識を失っているはずのトナカイ達の身体から我気が溢れている。どういうことだ。 「……あれは?」  なにやら黒いペンダントがトナカイ達から離れ、どこかに飛んで行った。 「ではクズネさん。またお会いしましょう」 「ちょ、逃がすか!?」 「良いのですか? あれを放っておいても」  怪盗が指を指す方を見ると、ペンダントが一点に集まっている。あの方向は、タワーの最上部。子供達がいる場所。 「……っ!」 「では、失礼」 「ま、待て!」  追おうとして、こちらに何かを投げたことに気付く。咄嗟にそれをキャッチすると、 「……チッ」  自分の力を抑えていたビー玉。これを手放したということは、本気で逃げるつもりだ。  いくら特待生がいるとはいえ、自分がいながら死者でも出そうものなら世界の信用問題にも関わってしまう。 「……絶対、次は捕まえたるからな!」  ビー玉を片手でぶっ壊し、怪盗が消えた方向を睨みつけるのだった。 「あーぁ。時間切れか」 「なんやと?」  それは、ゼリスと翔矢の場所からも見えていて。 「楽しかったけど、今日はこれまでだ。それに、収穫もあったしね」 「……何の話や?」 「何言ってるのさ、君のことだよ、風間翔矢君。多分、君はある意味、特待生の奴らよりもクズネさんよりも、1番ヤバいやつだったって話だ。もう二度と君とやるのはごめんだね」  切り落とされた自身の右腕を見ながら(・・・・・・・・・・・・・・・・・)ゼリスは笑った。その笑いは本当に歓喜に震えているような。 「……逃がすと思うんか?」 「君の大事な仲間が、今にもヤバいかも知れないのに? 君は見ないふりできるの?」 「……っ!」 「……じゃあね、もう二度と会いたくはないけどさ」  シュン、とゼリスは闇に消える。翔矢も今の状態を解除した。 「…………はー、しんど。まさかここまでキツいとは思わんかった」  思わず座り込んで息を整える。さすがに今の戦いはしんどかった。それでも、翔矢は笑って言うのだ。 「……ワイはまた、戦いたいで。ゼリス!」  辺りの玩具は見る影もなくズタズタに引き裂かれている。2人の戦いの凄まじさが生々しく残っていた。
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