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2人の真剣な表情。なにか策があるのもわかる。
「……大丈夫なんか?」
「「はい!」」
もちろん、犠牲はださないほうがいい。もし、そんな手段があるのなら。
「……フォローはしたる。思いっきりやってみ」
「いくぞ、亮!」
「はい!」
刃を背中から抱いて固定し、翼を展開。
『パパ、ママ、あれに近づいて』
「亮!」
「うん!」
指示通りに飛んで一気にノワールに近づく。ノワールに触れさえすれば、どうにか出来るようだ。
『ガアアアアアアア!!!』
「まぁ、そんな簡単にはいかないよな!」
近づけば反撃が来る。そんなことは分かってる。
──ドン!
「……あんさんの相手は、ウチがしたる!」
『グルアアア!!!』
しかし、それはクズネが止めてくれる。刃と亮は全速力で懐に飛び込み、
「はぁっ!」
刃が手を伸ばしてノワールに触れた。すると、
「……!? なんだ、これ!?」
何か黒い力が刃の身体に流れ込んでくる。これは、我気だ。
「(……これって、つまり)」
『ガアアア!!!?』
そしてその我気が吸収されると同時にノワールが苦しみ出した。おそらく、我気が吸い出されたことで弱っているんだ。
「(なら、これはどうだ!?)」
『ギャアアアアアア!?』
逆に今度は我気ではなく燈気をノワールに流し込んでやる。自分たちには薬でも、我気を力にしているノワールには毒だと思ったからだ。
「よし、効いてる! もう少し──」
しかし、そこまでわかっていて、刃は思い至らなかった。
「……ッ!? があああああああ!!!?」
それは刃にとっても、同じだということを。
刃が吸収した我気は刃の身体を侵食し暴れ回る。内側から喰われるような、想像を超える激痛。
それに、圧倒的に燈気も足りない。このままでは、逆に飲み込まれる。
『パパは……ぼくが、助けるよ』
と、少し体が軽くなる。
「……お前」
『だから、がんばって』
見ると、『天使歌声』が出して周りに散った白い羽根が刃に集まっていた。それが刃の身体を、燈気を回復させる。
これで、まだ戦える! まだ粘れる!
「ぐっ……がああああああ!!?」
「刃君!?」
しかし、今度は燈気が集まりすぎている。刃の燈気の許容量を優に超えた燈気は刃の身体を蝕みはじめた。
「(このままじゃ、刃君が……でも、どうすれば……)」
そして、亮は思いつく。さっき黒亮がみつ子から我気を奪った方法を。
その方法で刃の身体の余った燈気と我気を自分に移せば、きっと……。
「……っ!」
悩んでる場合じゃない。今は邪念は捨てろ。
これは人工呼吸、そう、人工呼吸なんだ!
「刃君!」
亮は叫び声を上げる刃の口を自らの口で塞ぐ。そして、燈気と我気の吸収を試みた。
「…………ぷふぁ! な、なんで!?」
できない。刃の身体にある燈気や我気を移すことができない。一体なぜ。
『……ママ、もっと強くやらないと、ダメだよ』
「つ、強く!?」
赤ん坊の言葉に亮は動揺する。つまり、もっと深いキスをしなければ刃を助けられないということらしい。
「……っ!」
悩むな。刃を助けると決めてここにいるのだから、今はそれだけを考えろ。
謝罪も贖罪も、全てが終わったあとでいい。ただ今は──
──火野刃を、助けたい!
「……!」
もう一度刃の唇に自らの唇を重ねる。今度は、もっと深く。もっと強く。
「……っ! …………っ!!!」
やった事がないから、舌を入れるキスがこれで合っているのか分からない。
目を開けられない。恥ずかしい。でも、そんなことは言っていられない。刃の顔を抑えてズレないようにする。
「(……! 入ってきた!)」
自分に燈気も我気も流れ込んでくるのを感じる。腹の中に激痛が走り、亮も口を離しそうになるが、
「(……『回復』!)」
その燈気を使って身体の痛みを軽減。残りを刃の傷付いた身体の回復に使う。
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