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『ガアアア!!!』
「大人しくしとき!」
と、クズネの様相が変わっていく。身体が巨大化し、身体の骨格も人のそれではなくなっていく。
「……あれが」
「……九尾の狐」
九尾の狐。神獣族の中でも上位に位置する個体。白銀の身体に9本の尻尾。燃える灼眼が敵を捕捉する。
『ガアアア!!!』
その牙が、その爪がノワールの腕と身体を押さえ付ける。これでノワールはまともに動けない。
『決めてこい、ガキ共!』
ここからは力技。相手の力を奪って自分たちの力にする。相手がやったことと同じ。
「(助ける……!)」
限界まで相手の我気を自分の中へ。刃の体の中で暴れてはち切れそうな力を、
「(助ける……!)」
亮が自らの身を持って受け取り分散する。
──パキン!
何かが割れる音がしたかと思えば、怪物の胸の辺りが剥がれ落ち、
「(ノワール!)」
中から人間状態のノワールが姿を現した。下半身と両腕は怪物に取り込まれたままだが。
『ガキ共、それが本体や! それを壊せ! そうすれば囚われていた奴らも開放されるはずや!』
『ガアアア!!!』
『!?』
それだけはさせまいと、ノワールはさっきより強く暴れようとする。
『なんつー、力や……!?』
まずい、まさかこの状態でも止めきれないとは思わなかった。このままでは……!
──ガシッ!
『……!?』
「刃! こいつは俺達が抑える!」
「はい、だから刃さんと亮さんは、その怪物を……!」
皆がそれぞれに紋字を使って怪物を抑えにかかる。ノワールの動きが完全に停止した。
「決めろ、刃、亮!」
「……亮!」
「はい!」
流斗の言葉に亮は頷く。あとは、もう力づくで──
『させ、ない!』
「「!?」」
人間のノワールが急に口を開く。そして、その開いた口に我気が収束。
まずい、今それを放たれたら、避けきれない!
「刃、亮!?」
誰も怪物を押さえつけるのに必死で間に合わない。
ここまでかと、刃達が目を瞑った瞬間。
「『盾』!」
──ドウン!!!
刃達に向けて放たれた攻撃は何かに防がれる。一体、誰が今の紋字を──
「……!?」
刃は見た。後方でこちらに手をかざしながら、苦しみながらも笑う、その人を。
「……光」
『天使歌声』の効果で少し回復した光が立っていた。
ふらふらで、霞む目を見据え、それでも光は見失わない。
彼を、見失ったりしない。
「決めなさい、刃! 亮!」
「(……本当に、光ちゃんは)」
それ以上、亮は考えなかった。
知っていたから。彼をいつだって考えて、側にいて支え続けていたのは、彼女だったのだから。
──刃の光なんだから。
「亮!」
「刃君!」
でも、それでもいい。
今だけは、この瞬間だけは。
『俺がお前を、刃のメインヒロインにしてやる』
「私は刃君が……大好きなんだからああああああああ!!!」
「「はあああああああああ!!!」」
そのまま勢いよく押し込むと、人間のノワールごと怪物の土手っ腹に穴を開ける。
『ア……ガ……!』
バラバラと崩壊していく怪物の体。宙に浮く中で、ノワールは小さく目を開けた。
「……知らないよ、後悔しても」
それは亮に言ったんだと、すぐに分かった。
確かに、苦しい道かもしれない。何も残らない道かもしれない。でも、それでも。
「……しないよ。だって、刃君を好きな気持ちは、誰にだって負けないから」
──それは、あなたがよく知ってるでしょ?
亮は小さく心で問う。ノワールは、小さく笑った。
「……泣いてるくせに」
「泣くよ。当たり前でしょ?」
涙を拭って刃を見る。少し困った表情をしている。
「(……そんな表情、してくれるんだ)」
知らなかった。私が告白すると、刃君はこんな顔をするのか。
知らなかった。言葉にするのが、こんなに身体を、心を熱くさせるなんて。
「……私は、もういらないね」
「……そんなわけ、ないでしょ?」
その亮の言葉に、ノワールは驚きを隠せない。
「……え?」
「あなたは私だもん。あなたも大事な、私の気持ち。だから……」
刃と亮は頷いて、刃の剣に亮の手を重ねて天に掲げる。
空まで伸びる白い光。刃達も白い燈気に包まれ、それが溢れ出す。
「……また会おうね、私」
「……またね、私」
──その天まで伸びた光の剣は、真っ直ぐにノワールへと振り下ろされ、そして……。
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