第14話 ノワール

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『ガアアア!!!』 「大人しくしとき!」  と、クズネの様相が変わっていく。身体が巨大化し、身体の骨格も人のそれではなくなっていく。 「……あれが」 「……九尾の狐」  九尾の狐。神獣族の中でも上位に位置する個体。白銀の身体に9本の尻尾。燃える灼眼が敵を捕捉する。 『ガアアア!!!』  その牙が、その爪がノワールの腕と身体を押さえ付ける。これでノワールはまともに動けない。 『決めてこい、ガキ共!』  ここからは力技。相手の力を奪って自分たちの力にする。相手がやったことと同じ。 「(助ける……!)」  限界まで相手の我気を自分の中へ。刃の体の中で暴れてはち切れそうな力を、 「(助ける……!)」  亮が自らの身を持って受け取り分散する。 ──パキン!  何かが割れる音がしたかと思えば、怪物の胸の辺りが剥がれ落ち、 「(ノワール!)」  中から人間状態のノワールが姿を現した。下半身と両腕は怪物に取り込まれたままだが。 『ガキ共、それが本体や! それを壊せ! そうすれば囚われていた奴らも開放されるはずや!』 『ガアアア!!!』 『!?』  それだけはさせまいと、ノワールはさっきより強く暴れようとする。 『なんつー、力や……!?』  まずい、まさかこの状態でも止めきれないとは思わなかった。このままでは……! ──ガシッ! 『……!?』 「刃! こいつは俺達が抑える!」 「はい、だから刃さんと亮さんは、その怪物を……!」  皆がそれぞれに紋字を使って怪物を抑えにかかる。ノワールの動きが完全に停止した。 「決めろ、刃、亮!」 「……亮!」 「はい!」  流斗の言葉に亮は頷く。あとは、もう力づくで── 『させ、ない!』 「「!?」」  人間のノワールが急に口を開く。そして、その開いた口に我気が収束。  まずい、今それを放たれたら、避けきれない! 「刃、亮!?」  誰も怪物を押さえつけるのに必死で間に合わない。  ここまでかと、刃達が目を瞑った瞬間。 「『(シールド)』!」 ──ドウン!!!  刃達に向けて放たれた攻撃は何かに防がれる。一体、誰が今の紋字を── 「……!?」  刃は見た。後方でこちらに手をかざしながら、苦しみながらも笑う、その人を。 「……光」  『天使歌声(エンジェルソング)』の効果で少し回復した光が立っていた。  ふらふらで、霞む目を見据え、それでも光は見失わない。  彼を、見失ったりしない。 「決めなさい、刃! 亮!」 「(……本当に、光ちゃんは)」  それ以上、亮は考えなかった。  知っていたから。彼をいつだって考えて、側にいて支え続けていたのは、彼女だったのだから。 ──(ヒーロー)(ヒロイン)なんだから。 「亮!」 「刃君!」  でも、それでもいい。  今だけは、この瞬間だけは。 『俺がお前を、刃のメインヒロインにしてやる』 「私は刃君が……大好きなんだからああああああああ!!!」 「「はあああああああああ!!!」」  そのまま勢いよく押し込むと、人間のノワールごと怪物の土手っ腹に穴を開ける。 『ア……ガ……!』  バラバラと崩壊していく怪物の体。宙に浮く中で、ノワールは小さく目を開けた。 「……知らないよ、後悔しても」  それは亮に言ったんだと、すぐに分かった。  確かに、苦しい道かもしれない。何も残らない道かもしれない。でも、それでも。 「……しないよ。だって、刃君を好きな気持ちは、誰にだって負けないから」 ──それは、あなたがよく知ってるでしょ?  亮は小さく心で問う。ノワールは、小さく笑った。 「……泣いてるくせに」 「泣くよ。当たり前でしょ?」  涙を拭って刃を見る。少し困った表情をしている。 「(……そんな表情、してくれるんだ)」  知らなかった。私が告白すると、刃君はこんな顔をするのか。  知らなかった。言葉にするのが、こんなに身体を、心を熱くさせるなんて。 「……私は、もういらないね」 「……そんなわけ、ないでしょ?」  その亮の言葉に、ノワールは驚きを隠せない。 「……え?」 「あなたは私だもん。あなたも大事な、私の気持ち。だから……」  刃と亮は頷いて、刃の剣に亮の手を重ねて天に掲げる。  空まで伸びる白い光。刃達も白い燈気に包まれ、それが溢れ出す。 「……また会おうね、(ノワール)」 「……またね、(りょう)」 ──その天まで伸びた光の剣は、真っ直ぐにノワールへと振り下ろされ、そして……。
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