最終話 そして、俺達は

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「……綺麗」  断と和真を運んでいる麗香は、そこから見えた光景に思わずそう呟いた。  上から眩く降り注ぐ光。上を見ると、白い光のドレスに天に伸びる剣。  さらに雪が積もって所々が赤く燃えている玩具の塔。さながらその光景は、 「……まるで、結婚式のケーキ入刀みたいですわね」  そんな馬鹿らしいことを、本気で考えたりして。  それが振り下ろされると、辺りの黒い力が一掃された。  これで、全てが終わったのだと、麗香は小さく安堵したのだった。           ✩ 「……刃君、ありがとうね」  警察や消防が駆けつけ、事情聴取や怪我の手当などが終わってやっと一息つけた時に亮はそう言った。  あの後、光はすぐに病院に搬送。命に別状はなく、他の全員も全身の疲労以外は大した外傷は見当たらなかった。  おそらく、『天使歌声(あの子)』のおかげだろう。 「……何の話だ?」 「……あの子を、止めてくれて」  あの子とはもちろん、ノワールのことだろう。 「いや、別に亮が感謝することじゃないだろ?」 「ううん。だってあの子は私の気持ちそのものだもん。だから、あの子に恥じることは、もう止める」 「……亮」 「……刃君。ちゃんと聞いてくれるかな。私の気持ち」  真剣に見つめてくる亮に少し悩んで、刃は首を横に振る。 「……まずは、蓮に言うって約束してる。だから、今、亮の言葉を聞く訳には行かない」 「……刃君らしいね」 「……終わったら、聞きに行くから」 「……待ってるね」 「ここにいたのか、2人とも」  と、刃と亮の所に来る影が1つ。 「流斗、みんなは大丈夫そうなのか?」 「あぁ。一応これから病院で見てもらう流れだ。お前たちもだからな」 「了解。それより、流斗」 「わかってる。あの『勝負』の件だが」  このPGPが始まる前に、刃と流斗が交わした約束を思い出す。 『先にテッペンに登頂したやつが、告白する優先権を得る』 『……それって』 『そうだ。先に光に告白する権利を得る。フラれたらそれまで。先にOKを貰ったら晴れて彼氏彼女。わかりやすいだろう?』 「……あぁ」 「……あの勝負は、お前の勝ちだ」 「!?」 「先に登頂したのはお前だった。だから、先に告白する権利はお前にある」 「そ、そうだったっけ?」  刃は必死に思い出そうとするが、全然思い出せない。色々なことがありすぎて、詳しい状況なんかは忘れてしまった。 「俺の記憶力に、疑いがあるのか?」 「そ、それは、ないけどさ……」 「刃、勘違いしてるようだが、お前はあくまで『先に告白する権利を得た』だけ。うまくいくとは言ってないんだぞ?」 「ぐっ……!」 「フラれたら、俺が全力で貰いに行くからな」  流斗の全力の告白。そんなことをされたら刃に勝ち目など無くなる。最初で最後のチャンス。必ずモノにしなくては! 「わ、わかったよ」 「……俺の話は以上だ。皆は向こうにいる。お前も少し顔を出してきたらどうだ? その後に光のお見舞いにでも行こう」 「そうだな、じゃあちょっと行ってくるよ」  タタタと走り去る後ろ姿を見送ってから、流斗は亮に向き直った。 「……いいのか?」 「……いいんだよ、これで」  あえて、何をとは言わない。 「……流斗君こそ、いいの?」 「あぁ。いいんだよ、これで」  お互いに主語を言うのは避けて、流斗は自らの上着を亮の肩にかけて隣に座った。 「流斗君、寒くない?」 「俺は『氷龍族』だぞ? 寒さに弱いわけがないだろう」 「それもそうか」 「……なぁ、亮。別に、フラれたからって全てが終わるわけじゃない。好きでい続けることだって──」 「……もちろん、すぐに忘れるのは無理かもしれない。でも、きっと、あの2人がくっついてくれれば、諦めがつくと思うんだ」 「……そうだな。俺もだ」 「……本当に、似た者同士だね、私達」
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