最終話 そして、俺達は

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「……なぁ、亮」 「何?」 「もし、刃と光が上手くいったら、俺と付き合わないか?」 「…………え?」  思わず下を向いていた亮の顔は流斗に向く。流斗は真剣な顔でこちらを向いていて。 「……じょ、冗談、だよね?」 「……正直、俺は光が好きだ。今でも、そしてこれからも、好きであることは変わらない。それは、お前もそうだろう。俺はきっと、慰め合えるやつが欲しいんだと思う。同じ痛みを持つやつが、傍に欲しいんだと思う」 「……っ!」  その一言で気づいた。流斗は、逃げようとしている。自分の気持ちから、自分の境遇から、これ以上戦うことを放棄して、諦めようとしてる。  泣きそうな顔をしている。きっと、その提案を受け入れてあげれば彼は喜ぶのだろう。  でも、そうすれば彼は二度と立ち上がれなくなるかもしれない。彼にこんな顔は似合わない。いつも自信満々で、自信過剰で、何にも逃げずに立ち向かう彼らしくない。 「……ダメだよ。だって、釣り合わないもん」 「そんなことはない! お前は凄く可愛くて──」 「あぁ、そうじゃなくて」 「……?」  だから、あなたには、いつものあなたらしくあって欲しいから。 「私は今、先に進もうとしていて、流斗君は、逃げようとしてる」  だから、流斗に指を突きつけ、笑って言ってやるのだ。 「私が、流斗君には釣り合わないってこと(・・ ・・・・・・・・・・・・・・・)」 「っ!?」  酷く驚いた顔をしたあと、 「くっ……そうか、俺がお前に相応しくないか……そうか、くくく、あははははははは!!!」  流斗は腹を抱えて大笑い。涙を流して転げ回った。 「はぁ、はぁ、そんな風に言われたのは、生まれて初めてだよ」 「いつも女の子が君の思い通りになると思ったら、大間違いだよ。流斗君?」 「……違いない。らしくなかったな」 「うんうん。反省してください」 「……じゃあ亮。もし、俺が慰めじゃなく、本気でお前を好きになったら、お前は受け入れたのか?」 「有り得ないかな。私は刃君が好きだもん。流斗君もでしょ?」  確かに、初恋を簡単に諦めるのは自分らしくなかった。流斗は少し考えて、 「だが、次に進むんだろ?」 「……そうだねぇ。私が刃君にフラれて、人恋しくなってて、流斗君が本気で私を好きになって、流斗君が私に相応しいって思ったら、付き合ってあげてもいいよ?」 「……上から、だな」 「流斗君がいつもやってることだよ」 「……よし、なら」  そう言って流斗は真っ直ぐ亮に向き直る。お互いに目線は外さない。 「……仮に、俺がお前に本気になったら、どうしようもないくらいお前を好きにさせてやる」 「……仮に、私が刃君を諦められたら、考えてあげる」  そう、あくまで『仮に』の話だ。有るかもわからない、可能性の話。 「……ぷっ!」 「……ふふっ!」  そんな小さな、小さな灯火。 「「あははははははは!!!」」  2人の間に灯った、小さな、小さな。           ✩ 「ぶええっくしゅ!!!」  トナカイの中の1人は大きくクシャミをした。それもそうだろう、雪の中で何時間も放置されていたのだ。  トナカイの着ぐるみも頭の被り物も濡れていて気持ち悪い。だから、被り物だけ脱いで隣に置いた。 「……しかし、なんで俺、こんなとこにいるんだ?」  確か、今日はバイトでリア充共を合法でボコボコにしていいこのバイトに参加したまでは覚えている。  しかし、そこから先の記憶が曖昧で覚えていない。何か、凄いことがあった気がするんだが……。 「次、君の番だ」 「あ、はい!」  警察に呼ばれ、仮設された建物の中に入る。暖房が効いていて、これが天国かと思う。 「じゃあまず、名前を教えてくれるかい?」 「はい、名前は矢田堅二って言います」  そうして元トナカイ、矢田堅二はほとんど覚えていないクリスマスイブの悲しい思い出を語る羽目になるのだった。
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