最終話 そして、俺達は

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          ✩ 「(……あれは、どういうことだ)」  病院へも行かず、鎧亜は1人会場を後にしていた。別に大した怪我もしていないから、必要もなかった。  それでも、鎧亜の心は落ち着かない。原因は、あのフードの男。 「……あの顔は、間違いなく」  そんなわけないことは分かっている。でも、一瞬でも見間違えるはずがない。あの顔は、アイツと全く瓜二つだった。 「……火野、刃」  火野刃と、瓜二つの顔。少し成長して大人びていたが、他人の空似にしては似すぎている。 「……いったい、何が始まろうとしているんだ」  白い雪が舞う空を眺めながら、鎧亜はそんなことを呟いたのだった。           ✩ 「……はぁ」  やっと周りから解放され、美瑛はため息をついた。  さっきからニュースの人にあれやこれやと質問攻め。  もはやPGPが始まる前の『ラブラブ彼氏事件』など、完全に忘れられていた。 「(嬉しいような……悲しいような)」  確かに困ってはいたが、こんなことになるくらいならあのまま噂だけで終わってくれていた方が楽だった。流石に疲れたし。 「美瑛ちゃん!」 「……刃君!」  と、刃が走ってきた。妹と自分の想い人。しかし、今は気軽に会ってもいいのか怪しい。 「どうだ、体調は?」 「あぁ、大丈夫大丈夫! むしろその後の質問攻めの方がキツかったかな」 「……昨日から、ずっとなんだろ?」  それは、刃とのスキャンダルの話だ。 「気にしないでよ。あぁいうのは付き物なんだから。芸能人ってさ」 「でも……」 「……うん、勝手だよね」 「え?」  本当に勝手だ。みんな、みんな。 「……だって、そうでしょ。噂だって言ったって騒ぐ人はいるし、誤解だって言っても信じて貰えない。大体、私はアイドルじゃないのに彼氏はダメとか、なんでだよって感じだし……」 「び、美瑛ちゃん?」 「本当に……勝手な人ばっかり。誰も、私の言うことなんか聞きゃしないのに。勝手に噂立てるくせに、何を聞こうっていうのかな、あの人たち」  何を言ってるんだ、私は。止めろ、喋るな。美瑛は自分に言い聞かせるが、想いが止まらない。 「……もう、疲れた」 「美瑛、ちゃん?」 「もう疲れた! なんでよ! 私がなんか悪いことした!? 私はただ普通に可愛い服きて写真撮ってもらって、皆とワイワイしたり、青春したりしたいだけなのに!!!」  止めていた想いが、溢れ出す。 「だいたい、私が誰とどうしようと勝手じゃん! 誰かに言われる筋合いないし! 本当は彼氏とかだって欲しいもん! 私だって普通に女の子なんだもん! それが彼氏作ったらボロくそに言われるし、しつこいし! もうヤダ!!!」  昨日から張り詰めていた想いが、涙と共に弾けてしまった。よりにもよって、彼の前で。  最悪だ。引かれた。好きな人の前で、こんな情けない姿。死にたい。あの時どうにかなっておけば良かったと、今更に後悔している。 「ご、ごめんね、刃君。だったら仕事辞めろよって話だよね……あはは……」 「…………」  うまく誤魔化せただろうか。そう思って美瑛が刃を見ると、刃は真剣な表情のあと何かを決心した様に1回頷いた。 「美瑛ちゃん、こっち!」 「……え? 刃君!?」  刃に手を引かれ、美瑛が連れていかれたのは、 「……あの、すいません!」 「……はい?」  さっき美瑛が囲まれていた、ニュースのキャスター達の前。 「……あら、君ってまさか」  流石に刃のことも知っているらしい。しかし、こんな人達の前に2人で手を繋いでいたら……。  刃はそのままカメラの前まで行って、大きく息を吸って大声で言った。 「……美瑛ちゃんと俺は、なんでもありません! 俺が勝手に、美瑛ちゃんに言い寄ってるんだ!」 「……っ!?」  何を、言っているんだ? 「だから、噂にあるようなラブラブとかじゃなくて、お、俺が美瑛ちゃんの弱みを握ってやらせたんだ! じゃなきゃ、あんなこと美瑛ちゃんがするわけないだろ! どうだ、羨ましいだろ! 見てるか! もはや三条美瑛は俺の奴隷だ!」  わざわざカメラに向かって挑発するように言う。こんなことを言ったら、刃の身が危ないことくらい分かるはずだ。  なのに、なんでこんな嘘を……しかも、人がこんないる場所で。 『は? あいつって……噂の美瑛ちゃんの彼氏!?』 『弱み……道理であんなやつが美瑛ちゃんと……ラブラブなんて大嘘だったんだ!』 『クズ野郎……ボコボコにしてやる!』  辺りの人の全ての殺意が、全ての意識が刃に集中する。  そうか、刃は私の代わりに全ての原因を被ろうとしているんだ。 「刃君! そんなこと──ムグッ!?」 「おっと、余計なことは喋るなよ! お前の恥ずかしい秘密を話しちまうぜ、ゲヘヘヘ!」 ──ブチッ。  美瑛の口を抑えた瞬間、辺りから何かキレる音がした。刃の思惑は成功も成功、大成功だ。 『コロス!!!』 「さらばだっ!!!」 「じ、刃君!?」  そうしてその場からダッシュで逃げる。美瑛の手を引いて、2人でわき目も降らずに。
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