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「……サンキューな、蓮。ここまで付き合ってくれてさ」
「……別に。大丈夫」
その帰り道。刃と蓮は2人で雪の降る道を並んで歩いていた。
途中にあった公園に入り、街灯の下まで来て、刃は足を止める。
「……蓮。あの日の答えを、お前にしなきゃいけない」
「……うん」
まっすぐ向き合う。刃にとって、初めて真正面から『好き』と伝えてくれた女の子。
「えっとな……蓮。俺は……」
「……刃」
「な、なんだ?」
「……光、大したことなくて、良かったね」
「お、おう、そうだな」
「……最初から、刃の中には光がいるんだよね。それこそ、ずっと昔から」
「……」
「……刃の答え、聞かせて」
白い息が舞い、彼女の瞳が真っ直ぐ刃を見据える。誰もいない。2人きりだ。
泣いているんだろうか。彼女の瞳は街灯に照らされて輝いていて、目元をうまく見ることは出来ない。
「俺は……俺は……」
彼女のためにも、しっかり終わらせなきゃいけない。この後に言う亮にも、しっかり言わなきゃいけない。
そして何より、光に言わなきゃいけない。この覚悟を。この思いを。
刃は意を決して、蓮に思いを告げた。
「俺は……大門寺光が好きだ! だから、蓮。お前の気持ちには、応えられない!」
頭を下げて精一杯の誠意を見せる。
「……そっか」
泣いているんだろうか。刃が顔を上げて蓮を見ると、
「れ、蓮?」
優しく、微笑んでいた。最初からあまり感情を出さなかった蓮が、笑っている。
「……わかってたよ。そう言うだろうなって」
「……ごめん」
「ううん。それは、これから私が言うセリフ」
「……え?」
と、蓮の笑顔が消える。その瞳は真剣に刃を見据えていて、
「……刃。もう1つ、話があるの」
「……もう、1つ?」
「……そう、すごく、大事な話が」
蓮が刃にそう語り出し、その話が終わった頃には……
「じゃあ、刃。これから、恋人として、よろしくね」
火野刃と東蓮は、恋人になった。
~I’tem 3 [完]~
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