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「…悪い。文句なら後にして」
「……」
「今はちょっと……まともに聞けそうにないから」
葉山がオレの横を通りすぎていく。
一人残された廊下で、ずるずると蹲った。
『リオが横にいて、誰も……、俺を選ぶはずないのに』
あいつは……葉山はどういう気持ちでその科白を口にしたのだろう。
いつも周囲を励まして、気を遣う優しい葉山が、諦念じみた声でそう言った意味は。
小学校からの、同級生。
どれほどの悔しさを、苦い経験を、その胸にしまいこんできたのだろう。
『……お前が嫌に思うなら、俺から離れていいよ』
そして支倉は、自分から離れようとする誰かをどうしてそんなあっさり見送れるんだ。
引き止めないのか。言い訳すらしないのか。
物わかりがいいにも程があるだろう。
葉山からしてみればそれはなんて悲しく、なんて苦しい。
とても、オレが入り込める領域じゃなかった。
一方的に当たり散らすことしか知らない自分がずかずかと踏み込んでいい問題ではなかった。
その壁が、どうしようもなく歯痒い。
『……なんでお前がキレてんの?』
そんなの───、オレが知りたい。
どうしてこんなに歯痒いのか、オレ自身すらこの激情の名を知らない。
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