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【3-Summer course】
「………夏期講習?」
夏休みを目前に控え、一枚のプリントが配布された。
それはお盆休み直前まで実施される夏期講習に参加するか否かを問う。
教卓では担任の村西が、夏期講習のスケジュールについてつらつら説明していた。
ただでさえ土曜の午前中も学校で潰されているというのに、わざわざ夏休みを削ってまで……と思わなくもないが、志望校を変えるなら数学以外の平均点も底上げする必要がある。
塾には行けない。
金を出すのは親だから。
父親にはまだ進路変更の話をしていないから。
あんな親父の力なんか借りなくたって、オレは自分の力だけで将来を切り開いてやる。
「葉山たちは講習どーするー?」
「あー、俺は部活出なきゃだから。パス」
「そっか。安藤は?」
「俺塾あっから無理げ。安田も」
「そっかあ…」
「中嶋ー。今先生話し中なんだけどなー」
肩を落とした中嶋がぐりんっと首を回転させてオレを振り返る。
その気迫に少々驚いたことは墓まで持っていく秘密だ。
「桐生は? 参加する?」
当然のようにオレに話題を振られるのを、なんだか気恥ずかしく思いつつ、ちらりと遠い席の支倉を横目に見た。
少し前までは支倉に勉強を教えて貰えないかと考えていたけれど……やめた。
あの放課後、葉山と支倉の一部始終を盗み聞いてしまって以来、オレは彼らと接するとき、心のどこかでぎこちなさを覚えている。
オレが待ち伏せ紛いなことをしていたと、支倉は知らない。その負い目もあった。
こんな状態で、支倉に勉強を教えて貰おうなんざむしがよすぎると思うのだ。
だから支倉には頼らない。これがオレなりのけじめだ。
「参加、する」
「え、まじで!! よっしゃナカーマ!!」
『参加』の項目を丸印で囲んだ。これで途中変更はきかない。
「一応聞くけど、支倉はー?」
「一応って何だよ。するよ」
「っえ、支倉参加すんの!!? それ以上頭良くなってどーすんの!?」
「夏休み暇なんだよ」
「お前なら夏休みまでに彼女の一人や二人ささっと作れんだろー! 中学最後の夏に勉強漬けなんて!」
「中嶋ー。そろそろ廊下に立ってなさーい」
しかし予想外にも支倉が参加するとのことで、クラスメート(主に女子)の決断が一気に片方へ傾いたことが気配でわかった。
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