heads or tails?

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 午後の部が始まって、オレは勝ち負けすら頓着せず、ぼんやりと競技を眺めていた。  最後の団対抗リレー。  オレの視線が追うのは、たった一人。  女よりも生っ白い脚を持つ、すらりとした細身の男。  そこにただ居るだけで華やかな空気を作り、異彩を放つ唯一の男。 『────例えば、その人がそばにいると胸がドキドキして』  真っ当な美的センスがあれば、十人が十人振り返るだろう圧倒的な存在感。  そこに、同性にも異性にもない色香を嗅ぎ当てたのは確かだった。 『────だけどその人が別のコと仲良くしてるところを見るだけで、くるしい』  リフレインするのは、先ほどの支倉と斉賀原との出来事。  しかし今思えば、あいつと付き合いが長い葉山に対して思うところが何もなかったといえば、嘘になる。 『────いつも通りの自分がわからなくなるくらい、心の中を乱されて、調子を狂わされて』  こんな葛藤を知らなかった。  もうながいあいだ、こんなにもたった一人のことで頭が占められることがあるなんて、一度も経験したことはなかった。 『────気付いたらその人の姿をずっと目で追ってるの』  ほら。今だってそうだ。  斉賀原にバトンパスする一挙手一投足に、目を奪われる。全神経が持っていかれる。  意識するなとどれだけ自分に言い聞かせたところで、その時点でだいぶ意識してんだ。 『────その人を想うだけで一喜一憂して、毎日が充実してる。こんなことってない?』  ああ……ある。  悔しいけど、認めたくないけれど、あいつやあいつのまわりに巻き込まれて以来、毎日が充実している。  だからこそ気づきたくなかった。  気づいた瞬間、圧し殺さないといけない感情を、抱え込みたくはなかった。 『────桐生くん、今好きなひといるでしょ?』  オレは。  支倉が、好きだ。  そして自覚した瞬間に、決して叶わないこの環境を憎んだ。  声援がグラウンドにこだまする。  アンカーの葉山がゴールテープを切った瞬間に、盛り上がる周囲とは完全に切り離された思考の海の中で、そっと瞼を伏せた。  この日以来。  オレは、支倉を避け始めた。  
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