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【3-The season of exams】
「三年の課題曲はプリントの通り。───皆、何歌いたい?」
チョークを置いた葉山が教壇に手をつき、クラスメートにそう問いかける。
配布プリント片手に、最初に元気よく中嶋が挙手をした。
「はいはい! 俺『天馬』歌いたい!」
「理由は?」
「なんか曲とかリズムがかっけえ!」
「かっこいい路線なら『流浪の民』とか個人的に好きな曲調だなあ」
「でもあれ女子のソロあるじゃん? 皆絶対やりたがらないでしょ」
「『HEIWAの鐘』は? 平和主義系の曲って教師ウケ良さそうじゃね?」
「『春に』は去年も一昨年も優勝したし、金賞取りやすそう」
「ラピュタがいいなあ。それ以外だと歌詞忘れるかも」
「とにかく三組に勝てるならなんでもいい!」
────10月上旬に行われる合唱コンクールに向けて、体育大会に引き続きクラスはまた活気づいていた。
体育大会で三年三組率いる赤団に僅差で負けはしたが、その経験を通してクラスは一学期の頃よりさらに一体感が増したように思う。
打倒三組、目指せ金賞をスローガンに、選曲の段階でありながら白熱した話し合いが今現在繰り広げられていた。
「じゃ、多数決な。とりあえず上位三曲決めて」
「待て、伴奏の俺の意見は?」
「大丈夫だって、リオなら何の曲来たって余裕だろ?」
団長に続き、満場一致で指揮者に抜擢された葉山。
そして───ピアノ伴奏者はなんと、支倉。
デキスギくんはこんなところまでデキスギくんらしい。もう驚くのも疲れた。
笑顔で断言する葉山に気が削がれたのか、支倉が諦めたように肩を竦める。
多数決が行われ、オレもテキトーに手を挙げた。
「よし、決まったな。できるだけ一位の取れるように頑張る」
「葉山、絶対じゃんけん勝てよ!」
「金賞取って、体育大会のリベンジしようぜ!!」
わあわあ盛り上がる輪の中心を視界から外し、チャイムが鳴った合図で人知れず便所へ向かう。
別に用を足すわけでもない。
意味もなく頭髪を整えたり、手を洗ったりして、極力そこで時間を潰す。
体育大会が終わって二週間。9月の下旬。
気持ちを自覚したあの日以来────オレは、支倉と一言もくちをきかない日々を送っていた。
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