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またいつものように怒鳴られるかと思ったが、
「・・大会で倒れたんだってね」
次に続いたその言葉に、冬乃は母の目をおもわず見返した。
「医大の男の子にだいぶお世話になったみたいじゃない。あんたに連絡先は渡しているって言ってたから、次、会った時によく御礼いうのよ」
(連絡先・・あのメモ)
「この近くの医大だそうよ。あんたをタクシーで運んでくれたのよ、大学に戻る途中だからと」
冬乃が医務室で、ふたたび意識を失った後、
いま服を着ているところを見ると、おそらくはすぐに千秋が服を着せてくれたのだろう、
そして医大生に担がれて、タクシーで家まで運ばれたというとこだろうか。
(そういえばあのメモどこやったっけ)
冬乃が記憶を探っている間も、母は淡々と話していく。
母は医大生から、冬乃の深睡眠がおそらく極度の疲労と睡眠薬の体内残存によるものと考えられると、
そして大学での所用が終わったら、帰りにまた様子を見に来ますと、その時も起きないようなら病院へ連れて行きましょうと、言われたのだと。
話し終えると、母は冬乃を覗き込んだ。
「もう、大丈夫なのよね?」
母の向こう、壁の時計を見やれば、もう夜の10時半だった。
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