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小鳥の歌声に、冬乃はそっと瞼を擡げる。
瞳に映る、淡い朝光に褐色の肌。触れずとも見るからに硬く鋼の如き厚い胸が、
いま冬乃の目の前で穏やかに、ゆっくりと呼吸に上下して、
冬乃の背ごと覆うように首の下から頬にかけて添えられた、硬く丸太の如き太い腕は、反して優しく温かく冬乃を包み込んで。
あまりにうっとりと。冬乃はまばたきも惜しんで、瞳に映るだけのその狭い範囲の光景に見入った。
どうしようもなく、彼のすべてを好きなのだと。この今、区切られた範囲だけでさえも。
こんなとき冬乃はよけいに実感してしまう。
まだ、
恥ずかしすぎて、彼の顔を見上げることもできていないなかで。
起きているのかどうかも分からないものの、目が合ったら最後、
(だって今度こそぜったい噴火するっ・・)
昨夜の記憶は、それほど冬乃を夢でもうつつでも、すでに楽園に閉じ込めたままで久しい。
不意に、頭の後ろを撫でられて、冬乃はどきりと肩を揺らした。
(やっぱ起きてたんだ、・・って)
冬乃も目覚めていることに、
いま冬乃の髪を梳くように撫ではじめる手の主、沖田は、まさか気づいているのだろうか。
冬乃の姿勢は沖田の胸元へ殆ど顔をうずめるかたちで、沖田から見れば俯いていて、冬乃の表情まで見えないはずで。
なのに、まるで。
「…っ」
お見通しであるかのように。
撫でる手は今一度、冬乃の髪を攫った。彼の指に梳かれて、冬乃の長い髪がさらさらと宙に舞うのを感じる。
それだけ、なのに冬乃の心の臓はとくとくと高鳴りだして、
それを分かりきっているかの悪戯な手が。
飽くことなく。
幾度も。
(総司さ・・ん)
くすりと微笑う声が落ちてきて冬乃は、もはやきゅっと目を瞑る。
「どこまですると目覚めるかな」
「・・冬乃だぬき」
腕枕の腕でさらに沖田の胸元へと、冬乃の体は次の刹那に、抱き寄せられた。
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