【 第一部 】 平成十二年夏、東京

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 パーン!  「面あり!!」  弾かれたように勢いよく上がった赤旗が、冬乃の視界の端に映り、冬乃は湧き起こる歓声のなか竹刀を引いた。  ”女子個人戦の部、全日本二年連続優勝”  この広い大会場において、冬乃の名とその肩書きを知らない者はいない。  そして今回、  「やったあ冬乃!!三年連続優勝!すごすぎ!!」  応援に駆けつけていた千秋が抱きついた。  「行ってきな」  真弓が表彰台を指して、冬乃の肩を叩いた。  盛大な拍手の波にひかれるように、冬乃はトロフィを抱えて台をゆっくりと降りてゆく。  ───初めて竹刀を握った幼い日のことを思い出していた。  (あの頃は、まだ信じてたんだよね・・)  いつか彼に逢えることを。本気で。  その時のために、始めた剣道。  それから九年間、冬乃は着実に上達した。  上達とともに、冬乃は大人になってゆき、現実を知った。  所詮叶わぬ願い。  想いは、だが、憧憬から恋へと。つのるばかりだった。  「これで閉会式を終了します。一同、礼」  一瞬のち、会場内は俄かに湧いた。
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