【 第一部 】 平成十二年夏、東京

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 「冬乃!!」  千秋と真弓が駆け寄る。そのなかに母と義父の姿は勿論、無い。  「改めておめでと!!」  今いちばん逢いたい人も、勿論いるわけがなく。  「・・逢いたい」  「イタイって、どっか打ったの?!」  周りが騒がしいせいでよく聞き取れなかった千秋が、驚いて冬乃の肩を掴んだ。  「え?」  当惑した面持ちで覗き込む千秋と真弓を、ふと冬乃は、我に返って見つめ、  「うん、・・」  (そういえば、確かに)  「痛い・・」  「どこ?!」  冬乃は首を振ると押し黙った。  (なんだろう、この痛み・・)  「冬乃、マジ大丈夫なの?」  再び首を振る。  「誰か呼ぶ?」  「頭が・・・」  「頭?どのへん?!」  真弓が瞬時に反応して、冬乃の頭に手をやった。  「何かに引っぱられてるような、カンジなんだけど、」  (ぼうっとする・・)  「引っぱられてる?」  千秋と真弓は顔を見合わせた。  「医務室に行こう。歩ける?」  「うん、・・」  (よく前が見えない・・・これは何?・・  ・・・霧?)  「冬乃?冬乃、大丈夫?!」  「冬乃!!」  遠くで、千秋たちの叫ぶ声が聞こえる。  薄れてゆく意識のなかで、その声もやがて深い霧の壁に徐々に閉ざされていった。
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