壬生

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壬生

 「・・何も持ってませんでしたよ」  (─────畳のにおい)  その独特な香に、冬乃は、すん、と小鼻を動かした。  (ここは・・)  「と、気がついたようですよ」  ゆっくりと目を開けた冬乃を驚くほど間近で、色黒の顔がのぞきこんでいる。  (きれいな瞳・・・)  冬乃は幻でも見るようにぼんやりと眺めながら、  ふと彼の服装に目がいった。  自分と同じく稽古着らしき服を着ているところをみると、会場内の付属部屋がどこか・・。  そういえばもう痛みも、変な霧もない。  ふらり、と身を起した冬乃は。だが開け放たれた障子の向こうを、思わず凝視した。  そこには会場前の大路はなく、限りない一面の田畑が青々と広がっている。  「こ、ここはどこ?」  「・・壬生、ですが」    目の前の彼の低い穏やかな声が、冬乃を瞠目させた。  (いま、壬生、って言った?)  聞き間違いだよね?  冬乃は恐る恐る自分の身の回りを見渡す。    特に何もない四畳半程の部屋に、先程から冬乃を興味深そうに覗き込んでいる色黒の男と、綺麗な顔をした色白の男が並んで自分の傍に座っている。  (刀・・なんだけど・・・)  目に入った、稽古着を着ていない色白の男のほうの腰に差される脇差と、横の大刀に、冬乃はあんぐりと見入った。  「おい、女」  刀を凝視した冬乃を不審気たっぷりに、色白の男が睨みつけてくる。  (あれ?)  この顔、どこかで・・  「土方さん、この人、頭打って記憶なくしているんじゃないですかね」  え?今、  「土方さんって言いました?!」  「は?」  ・・て、たしかに似てる、土方様の写真に!  「おめえ、何者だ?」  ここが本当に壬生で。  時代劇みたいな格好で、  土方と名乗る、平成に遺る“土方歳三”の写真に似てる人がいて。  だとしたら、  この色黒の人は・・・  まさか。  「沖田総司様・・ですか?」  「そうですが。如何してそれを」  答えるよりも先に冬乃の目には涙が溢れて。  男達はそれからしばらく返答を待たなければならなかった。
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