9818人が本棚に入れています
本棚に追加
【 第一部 】 平成十二年夏、東京
逢いたい人がいる。
身の焦がれるほどに愛しい人、
貴方がここにいてくれたなら。
ここにいて、そばにいて、
大丈夫だと、抱き締めてくれたなら、
どんなに・・・・
「もしも奇跡がおこるとしたら?」
冬乃は気だるげに顔を上げた。
「そお、冬乃だったらさぁ、何願う?」
「奇跡なんておこるわけなくない?」
「それ夢なさすぎぃ。てか昔のひと好きなんでしょ、えっと江戸時代の・・」
「・・沖田様のこと?」
「そー」
机に放り出したままのコスメ一式をいいかげん片付け始めながら、冬乃は小さく溜息をつく。
「それが何か奇跡と関係あるわけ」
「だって冬乃、いつかそのひとに逢いたいっていつも言ってるじゃん、それってぇ奇跡願ってることじゃない?」
「・・・」
放課後の薄暗い教室に、二人の影が僅かに浮かんでいる。
冬乃の影が揺れ、後方にずらす椅子の音が教室中にやけに響いた。
高校3年、18歳になったばかりの冬乃は、目の前の友人、千秋を見据えた。
「私はね、奇跡とか信じないの」
「だからぁ冬乃が願ってることは奇跡だって」
「願うけど信じない」
「何それ?変」
千秋は不可解そうに眉をひそめた。
「逢いたいって、そぉゆうことじゃん」
「・・・いつか逢えるって信じたって、いつまでも叶わない現実に苦しくなるだけ。だから信じない。逢いたいって願うけど、ほんとに逢えるなんてもう信じない」
冬乃は教室を出た。千秋が後に続く。
「そっか。・・いつかタイムマシンできて叶うといいのにネ」
千秋はカバンからおもむろに雑誌を取り出した。
「ちょっと高いけどぉ・・コレ」
恋、お金、あなたに奇跡を起す石
カラフルに彩られた大文字が紙面を飾り付けている。
最初のコメントを投稿しよう!