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そう即答した沖田を見返した近藤の眼は、冬乃の目に切なげに揺れ。
「ならばせめて、試衛館だけでも継いでくれるか」
近藤の強い意志をもった眼が沖田を見上げる。
「おまえしか、ふさわしい者はいない」
「先生が本懐を遂げ、江戸へ帰還された暁には、承ります」
同じく、いやそれ以上に意志の強い眼が、近藤を見返した。
「分かった。その言葉、忘れないぞ」
「ええ」
部屋には今未だ、近藤、沖田、冬乃だけで。
冬乃はあまりのいたたまれなさに、こそこそと隅のほうへ寄った。
「おかえり冬乃さん」
そんな冬乃へ、沖田が声を掛けてきた。
「おかえり」
近藤の声も追って。冬乃は、二人へ慇懃に会釈する。
「あ、・・お茶、お淹れします」
結局いたたまれなさに負けて、奥に置いてあったやかんを手にして立ち上がり冬乃は、すぐまた障子を開けて出た。
井戸で水を汲みながら、胸内を奔るやるせなさに、白い息を吐き出す。
確かに沖田が、近藤の養子となって近藤の跡を継ぐはずがなかった。
『それだけはどう頼んでも譲らんのだな』
沖田へそんな溜息を返した近藤は、本人から聞いているのだろう。
沖田が近藤を護る為に、傍にいる事、
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