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(なんか、このところ食べても食べても、おなかすいてる・・)
昼餉の席で、冬乃は溜息をついていた。
(でも、ごはん何杯もお代わりするわけにいかないし)
使用人の身として、そこは遠慮しなくてはなるまい。
(食欲の秋かな?)
といっても、十月も十日を過ぎ、ここでは最早すでに初冬なのだが。
今日は朝昼とも沖田が、巡察や所用らしく隣の席にいないので、ただでさえ冬乃は気が沈んでいる、・・はずだが、食欲は旺盛なままで。
(おなかすいた)
食べながらそんなことを思っている自分に、冬乃は呆れる。
「冬乃殿、」
久しぶりに聞いたその声に、厨房での片付けを終えて戸の外で背伸びをしていた冬乃は嬉しさに振り返った。
「お元気でござったか。すっかり御無沙汰しております」
「安藤様。こちらこそ」
冬乃は微笑み返しながら。安藤の手にしている、華やかな刺繍のみえる紅色の紐へ、自然と視線が向かう。
「あ、じつは、これは例の女人からで・・彼女は刺繍が得意でござってな、色々よく作っているようで。そのうちの一本を、冬乃殿へと」
「え?」
冬乃は目を瞬かせていた。
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