禁忌への覚悟

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 「しかし冬乃殿の、その、扱きを使わずに、かように帯の位置で二重にして挟む方法は、花街の遊女の方などにお聞きになったのかな?このまえ、女性の身で角屋に行かれたくらいだから、お知り合いでもいるでござるか」    (え?)    「扱き無しに、かようにして地に裾を引きずらない程度まで既に持ち上げているやり方は、彼女に言わせると珍しいようでござる。・・女性の着付けに拙者は詳しいわけではござらぬが、そういった珍しいことは、花街の方々が最初に始めるものだと聞いたことがござる故」    「・・・」  (着付けは沖田様に教わったなんて言えない・・)    しかし沖田から教わったやり方は、恐らくすなわち、露梅のやり方だろう。    「・・そうです」  「やはり」  (そういえば、たしかに・・)  裾を手に支えて歩いている道行く町娘たちの中には時々、背後の腰から帯とは別に、紐が出ていたように思う。ちょうど、この扱きのような紐だ。    (あの紐、なんかの飾りだと思ってた・・)    どうやら、腰に紐をぶるさげていた彼女達の、帯の下でたわんでいた箇所は、あらかじめ帯に挟んで作られたわけではなく、この扱きの紐によって持ち上げていた箇所だったらしい。      冬乃は艶やかに微笑む露梅の顔を思い出した。  安藤の言うように、この時代の京都では、町娘が憧れた太夫や露梅ら天神といった、花街での教養を積んだ女性たちは、しばしば流行の発信源になったようだが。     
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