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「・・・あまり起きないようですと、・・」
「・・見てきますね・・」
声が途切れ途切れに聞こえてくる中。
見慣れた天井に。冬乃は、溜息をついた。
母の声は、一階の玄関から聞こえてくるようだ。
もう一人の声は、もう何度も聞いたあの医大の人の声。
(なんで私、部屋に戻ってるんだろう)
確か、最後に居た場所は大会場の医務室だったはず。
「冬乃」
冬乃の部屋の扉が開けられ、
「起きなさい」
母が入ってきた。と同時に、冬乃が目を開けているのを見て、あ、と小さく声を漏らし。
「・・・」
何か言いかけた母は、だがすぐ踵を返し、階下へと戻ってゆく。
「・・でしたら・・です」
医大生の声が聞こえ。やがて玄関の閉まる音がした。
母が再び階段を上がってくるスリッパのぺたんぺたんと響く音を耳に。
冬乃は、ゆっくりと起き上がった。
(暑い・・・・・)
平成の、ここでは。まだ夏だったことを思い出す。
エアコンのリモコンへと手を伸ばした。
行ったり、来たり。
(おかしくなりそう)
「あんた、私の睡眠薬持ってたんだって?」
母が入ってくるなり、そう言った。
「・・・」
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