禁忌への覚悟

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 つまり先程の玄関でのやりとりの声は、医大生がまた帰り際に寄ってくれたことによるものだろう。     「うん・・・」    こころなしか心配そうにしている母を前に、動揺している己の心を隠しながら。冬乃は母から目を逸らした。    だがすぐに。  「・・・おなかすいた」  あまりの空腹感で、おもわず呟いた。    「いいわ。何か作ってくる」      あっさりと部屋を出てゆく母の背を、なかば呆然と見ながら、冬乃はふらふらと再び横になる。    まさか、この空腹で幕末から目が覚めたのではないか。  そう訝るほどに、酷い。腹と背がくっつきそうで。      だいたい、幕末においてのこの数日、食べても食べても空腹感から逃れられなかった。  (やっぱり、これって)    沖田に揶揄われるほど唸って考えていた時の、     “平成にいる自分の体が、もはや耐えられないほどの空腹になれば、幕末にいる自分にまで影響してくる”    あの懸念が正しかった。ということではないか。      (そしてもし、おなか空き過ぎで目が覚めたなら、)  幾度、向こうに戻ってもまた、平成で空腹が過ぎれば、そのたび同じように帰ってきてしまうのだろうか。  (それじゃ、ぜんぜん幕末に長居できない)      (・・・その前に、向こうへまた戻れるの・・?)         
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