9818人が本棚に入れています
本棚に追加
つまり先程の玄関でのやりとりの声は、医大生がまた帰り際に寄ってくれたことによるものだろう。
「うん・・・」
こころなしか心配そうにしている母を前に、動揺している己の心を隠しながら。冬乃は母から目を逸らした。
だがすぐに。
「・・・おなかすいた」
あまりの空腹感で、おもわず呟いた。
「いいわ。何か作ってくる」
あっさりと部屋を出てゆく母の背を、なかば呆然と見ながら、冬乃はふらふらと再び横になる。
まさか、この空腹で幕末から目が覚めたのではないか。
そう訝るほどに、酷い。腹と背がくっつきそうで。
だいたい、幕末においてのこの数日、食べても食べても空腹感から逃れられなかった。
(やっぱり、これって)
沖田に揶揄われるほど唸って考えていた時の、
“平成にいる自分の体が、もはや耐えられないほどの空腹になれば、幕末にいる自分にまで影響してくる”
あの懸念が正しかった。ということではないか。
(そしてもし、おなか空き過ぎで目が覚めたなら、)
幾度、向こうに戻ってもまた、平成で空腹が過ぎれば、そのたび同じように帰ってきてしまうのだろうか。
(それじゃ、ぜんぜん幕末に長居できない)
(・・・その前に、向こうへまた戻れるの・・?)
最初のコメントを投稿しよう!