【 第一部 】 平成十二年夏、東京

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 「もー入んない、食った!」  買い物を済ませた冬乃、千秋、真弓の三人は、回転寿司店に寄って可能な限りの量を平らげた。  「ねー雨止まないんだけどォ・・」  ドア側に座っていた千秋が、外をのぞき見て溜息をつく。センター街を傘を差した人達がだるそうに歩いている。  「もー、やっと来た休みなのに」  のけ反って真弓がうめいた。  「どーする?これから」   「ゴメン、私このあと寄るとこあるんだ、」  冬乃は立ち上がった。  「きょう先帰るね」  「ちょっっと冬乃サンそれなくねえ?」  さらにのけ反って真弓がうめく。  「とりあえず出ますかぁ」  あがりを一気飲みして千秋も立ち上がった。  「てゆーかドコ行くのサ」  店を背にそれぞれ傘を開きながら、真弓は冬乃を見やって尋ねる。  「ちょっとね」  「え、新カレ?」    「うっそさすがにマダでしょ?」  横から千秋が覗き込む。  「でもォ冬乃カワイイからホントすぐ出来っよねぇマジうらやましー」  「おい千秋、おまえこそカレいるんだからイイじゃん」  「にゃぁーん」  真弓に制されて千秋は猫真似ひとつで引っ込んだ。真弓は続けて、  「ハヤト君だっけ名前。先週別れたのって」  「うん」  冬乃は小さく返す。    「・・今度もまた一ヶ月続いてなくない?」  「はじめはいけると思ったんだけどね」  「じゃ冬乃の好きなのって沖田サンなまま?」    冬乃は黙って頷いた。  真弓が目を見開く。  「ちょっといいかげん現実の男を沖田サンと比べるのやめれない?」  「やっぱぁそんなイイ男?」  再び千秋が割って入った。かまわず真弓は、  「冬乃、見ててかわいそ過ぎ。本気なのわかるから、かなりネ・・」  「聞いて。」  そんな二人の横で、冬乃は立ち止まった。
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