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脇差の刃を寝かせて、降りきった男の腕を斬りつけながら横をすり抜け、
「ッうああああ!!」
腕から血を噴き出しながら叫ぶ男の隣で、
驚愕と共に、背後へまわった冬乃へ向き直ったもうひとりの男が、再び刀を振りかぶるより一寸前、
冬乃は手首を返し、男の手の甲へ斬りつけると同時に下がって、
「くぅあッ」
男がその痛みのあまり刀を取り落とすのを確認してから、
背を向けて駆け出した。
腕を傷つけられたほうの男が、何やら叫んで追ってくるのへ、
振り返り、手の脇差を投げつければ、
男は一瞬ひるんで避けると同時に立ち止まり。それからはもう冬乃を追ってはこなかった。
それでも冬乃はやがて降り出した雨の中、ひたすら走って、
屯所へ駈け込んだ頃には、本格的な雨にずぶ濡れになりながら、息も絶えだえに女使用人部屋の軒先へと倒れ込んだ。
この西本願寺の北一角に、新選組が大工を入れて新設した幹部棟には、
これまでのように女使用人部屋、兼、冬乃の部屋として、四畳半の小部屋が隣接され。
冬乃は幹部棟の風呂場を、彼らが使っていない夜の間に借りるようにしていて。
全身水浸しの身を起こしながら冬乃は、だが、今の時間では未だ風呂場は使えないだろうと溜息をついた。
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