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見上げたまま冬乃は言葉に詰まって。
(そんなに優しくされたら)
・・・辛いだけなのに。
「有難うございます・・ご厚意に甘えてそうさせていただきます・・」
観念した冬乃の返事に、沖田が頷いて歩み出した。
冬乃はあとに続きながら、もう何度となく見上げた彼の大きな背を、戸惑いにまみれて見つめ。
遠くで時を知らせる鐘が響くなか、冬乃の部屋の縁側で立ち止まったその背が振り返った。
「そうしたら、詳しく聞かせてもらえるかな」
冬乃はハイと頷いて。
気遣ってかそれ以上は先に動かない沖田を察して、冬乃は会釈を置き、縁側へ上がった。障子を開け、沖田を振り返って「どうか」と促せば、
やっと沖田も縁側へ上がってきて、部屋へ入る冬乃に続く。
新しい畳の匂いが立ち込めている中、冬乃は座布団を部屋の中ほどに用意し。
続いて茶の用意をと土瓶を拾い上げたところを「構わない」と止められ、
冬乃は、胡坐をかいた沖田の向かいへと、少々畏まって正座した。
しかし結局聞かれた内容は、その浪人達の風体や負わせた傷など、捕縛の参考にする為の情報のみで、
何故冬乃が町に出ていたかなどは聞いてこなかったことに、冬乃は拍子抜けして。
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