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(有難うございます、蟻通様)
決して強引に来ることはなく、ただ冬乃を気にかけ、見守っていてくれる。その優しさはとても温かく。
蟻通の気持ちに応えることができない一抹の申し訳なさと相まって、冬乃の心を緩く締めつける。
(沖田様も・・私に対して、こんな気持ちだったりするのかな)
冬乃は小さく溜息を落とし、切り替えるべく箒を構え直した。
暴漢に襲われそうになって、土産を落としてきてしまったことに。薬もその時に落としてしまったと添えて、
冬乃は、茂吉から久々にもらえた半日の休みに千代の家へ顔を出すなり、頭を下げた。
「冬乃さんがご無事でよかったわ」
千代がすぐにそんな冬乃を起こして、心から安心した様子で微笑んだ。
「ほんとにごめんなさい、それから・・」
もうひとつ、言わなくてはならないことを、そして冬乃は、千代を見据えて告げた。
「沖田様は、今は隊務が忙しくてお時間とれそうにないご様子なのです。江戸にじつは東下なさる予定でいたのも、それで取りやめになって・・」
「なので、とても声をおかけできそうになくて・・・ごめんなさい」
もう一度、冬乃は頭を下げた。
己の内の罪悪感を、無理に落とすように。
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