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「それも仕方ありませんわ。どれもこれも冬乃さんが謝ることありませんの、頭を上げてください」
千代の慌てた声に、冬乃は頭を上げながら、胸内をちくりと刺される想いに、小さく息を吐いて。
千代のほうは、冬乃を気遣うように小首を傾げた。
「それに冬乃さんとお出かけできるだけで楽しすぎるくらいですもの。沖田様には、どうかご自愛くださいますようお伝えください」
その、かわらぬ千代の明るい笑顔と。
もし冬乃がこんなふうに、千代と沖田の再会を妨害するつもりでさえ無ければ、救われたであろうその優しい台詞に。
冬乃は、もはや耐えられず。この後また仕事に戻らなくてはいけないと言い置いて、早々に千代の家を後にした。
昼間の人通りの多い中、何事も無く帰屯した冬乃は、女使用人部屋へと戻り。
(今日の持ちまわりは・・)
お孝が今朝きて置いていった当番表を手に取る。
使用人をもう数人雇ってもらえるように茂吉が動いてくれているらしい。大変なのもあと少しだろうかと。
願いつつ冬乃は、前掛けをつけて外に出ると、縁側に立てかけてある箒とハタキを手に取った。
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