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「あの、すみません。前回もお伝えしたと思うのですが、忙しいので呑みに行ける時間が無いのです」
「そもそも、僕の名前を覚えてくださってもいませんよね」
「え」
「つまるところ、はなからご一緒くださる気がないだけでしょう」
冬乃は押し黙った。
というより、そこまで分かっているなら、諦めてくれてもいいものだが。
「僕は池田小三郎といいます。まずは覚えてください」
(覚えてくださいって)
冬乃は苦笑してしまいながら、その記憶にある名に改めて思い至った。
そういえば池田はこう見えて、のちに沖田達と同じく組の撃剣師範を務めるほどの、一刀流剣術の遣い手だ。
冬乃はおもわず見直して、いずまいを正してから、
「ごめんなさい」
ぺこりと詫びた。
「以後、池田様のお名前は忘れません。ただ、呑みには行けません」
「そもそも、休みの日も忙しいと仰いますが、夜までお忙しいのですか」
顔を上げた冬乃を、きりりと、やはり眼鏡の似合う顔が追求してきて。
「ハイ」
冬乃は慌てて頷く。
「いつも夜もお忙しいということは、いつも先約があるということですよね?それも夜ならば、呑みの先約が」
「そういうわけではないんですが・・」
なんだか理詰めで迫られそうで、冬乃は恐々と構える。
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