【 第一部 】 平成十二年夏、東京

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 冬乃は再び机に向かうと、引き出しから耳栓を取り出し、着けたその上から常のようにヘッドホンを重ねた。    (・・ずっと互いに助け合ってきたと思ってたのに)  「冬乃!ここを開けろ!!」  冬乃は音楽の再生ボタンを押した。  (なのに私の気持ちなんか聞いてもくれず再婚するなんて)  本当の父親がどんなに酷い人だったか知らないけど、  それでも自分にとっては実の父親だったから。  ────会いにいってもいい?  以前そう口にした時、だが母は泣いて冬乃に怒鳴った。  あんな男のことを口にするな、と。  それからすぐに、母はまるで当てつけのように再婚した。    (それからだ。前のような私たちじゃなくなったのは)  今は、もう。口にしただけで母を泣かすような人に会ってみたいとも思わない。  今はただ、叶うなら、  あの頃のように『お母さん』ともう一度呼びたい、それだけ・・・  でも母は、自分より義父を選んだ。  だからもうあの人をそう呼ぶことなんて無い。  「開けろと言ってるだろう!!!」  大音量にした音楽の隙間をぬって義父の大声が聞こえた。  戸を叩く音が響きわたり、冬乃は眉をひそめた。
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