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冬乃は再び机に向かうと、引き出しから耳栓を取り出し、着けたその上から常のようにヘッドホンを重ねた。
(・・ずっと互いに助け合ってきたと思ってたのに)
「冬乃!ここを開けろ!!」
冬乃は音楽の再生ボタンを押した。
(なのに私の気持ちなんか聞いてもくれず再婚するなんて)
本当の父親がどんなに酷い人だったか知らないけど、
それでも自分にとっては実の父親だったから。
────会いにいってもいい?
以前そう口にした時、だが母は泣いて冬乃に怒鳴った。
あんな男のことを口にするな、と。
それからすぐに、母はまるで当てつけのように再婚した。
(それからだ。前のような私たちじゃなくなったのは)
今は、もう。口にしただけで母を泣かすような人に会ってみたいとも思わない。
今はただ、叶うなら、
あの頃のように『お母さん』ともう一度呼びたい、それだけ・・・
でも母は、自分より義父を選んだ。
だからもうあの人をそう呼ぶことなんて無い。
「開けろと言ってるだろう!!!」
大音量にした音楽の隙間をぬって義父の大声が聞こえた。
戸を叩く音が響きわたり、冬乃は眉をひそめた。
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