【 第一部 】 平成十二年夏、東京

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 (なにを我がもの顔に・・私のほうがずっと一緒にいたのに、妻の味方って顔して、父親らしい態度なんか何一つできないで)  義父の怒号と母の叫び声は、塞いだ両耳になお響き渡り、容赦なく嵐のように降り注ぐ。  (自分達だって子供の頃があったくせに、なんでわからないの)  親との不和は、親の想像するよりも遥かに深く、子を傷つける。  衣食住だけではない、子が精神面で頼れる存在もまた親であるべきはずが。その頼る先を長く失った子の気持ちなど、想像もできない二人。  (もういや、こんな世界・・)  母と心の通わない年月。気性の荒い義父の、度重なる言葉の暴力。  そして、  それを止めようとはしない母。    冬乃の居場所は、此処には無く。      いっそ早く死んでしまいたいと、何度願っただろう。    そのたびに想うのは、愛する人だった。    どれほど苦しくても、  彼のように、与えられた寿命を最期まで生きなくてはいけないと、  それが彼を愛する資格だと。思って。  耐えてきた。        「いい加減にしろ!!早く開けろ!!」    「あなた、もういいわよ!あんな子、何言っても無駄よ・・!」  沖田様。    もうこんな世界、捨てたい。    私の寿命を貴方にあげれたなら。    私の分を貴方がもっと生きられたなら。    貴方が早くに亡くなって、    死にたいと思ってるこんな私がいつまでも生きてるなんて、    なんて不公平なのですか。    ごめんなさい。    わがままだって、わかってる。    でも、もう。    ときどき限界になるんです。  
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