壬生

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 (同じ、光景・・)    建物から一歩踏み出してすぐに、冬乃は視界に飛び込んできた景色を認識した。  見間違えるはずもない、この目の前の前川邸の塀、    今出たばかりの門を振り返ればそこには、少しばかり記憶のそれと雰囲気が違うものの、平成の世にのこる正真正銘の八木邸が聳え立っていて。    八木邸も前川邸も、江戸から来た沖田達の、京都での滞在先 “屯所”であり。    (壬生・・)  ここは、確かに。  壬生の地で。  「・・・沖田様、」  冬乃は隣の存在を震える瞳で、見上げた。  (このひとは、本物の、沖田さま・・・)  ずっと想い続けたそのひとが、今ここに、自分の隣に居るということが。  (こんなことが起こるなんて)  もう。  夢でもいい。  夢でもいい、永遠に覚めなければ。  どうか、  「沖田様、私はずっとここに居てもいいでしょうか」  彼から離れたくない。  いちど離れたら最後、二度と戻って来られないかもしれないのが怖い。  だってもしもこれが奇跡とよぶものならば。  それが幾度も叶う保障なんて、ない。  「冬乃さん、貴女が事実、密偵の類ではないのであれば、貴女がどこに居ようと誰も構いませんよ」  沖田の低い声が、静かに、しかし冷たい響きを帯びて冬乃へ届いた。  (・・・っ)  冬乃の心に痛みが奔り抜ける。  「沖田様っ、私みたいな女が本当に密偵だなんてお思いですか!?」  泣きそうな叫びで返した冬乃に、沖田は目を見開いた。  「貴女は、自分がどこで倒れたのかも、覚えていないと・・?」
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