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「都合のいいことを言わないでくださいよ。濱田さんは苦手なんじゃなくて、面倒なだけでしょう? 何時もそうなんだからなぁ……俺だって女子と話すのは苦手です」
「早川とは、普通に話してるぞ」
「彼女は同僚です」
一瞬、意外そうな顔をした濱田は、神崎の言葉にニヤリと笑った。
「同僚は女子じゃないのか……早川が聞いたら気を悪くするぞ」
「やっ、止めてください。余計なことを言うと……」
「何の話ですか?」
慌てる神崎の後ろで、ハスキーだが感じの良い響きのある女性の声がした。
「あら、それ〔ラ・クレマンティーヌ〕の新作ですね」
「おう、早川も知っとるのか。給湯室に行けば、まだ残ってるかもしれんぞ」
濱田の言葉に、早川望は少し首を傾けた。否定するでもなく肯定するでもない時の、彼女の癖だ。
「私は甘いモノはあまり……でもそこの焼き菓子は割と美味しいですよ。実家の近くの、私がよく行くペットショップの隣なので母に買って来るように頼まれます」
「早川は辛党だったな、今度また飲みにいこうじゃないか。良い店を見つけたんだがね」
濱田の誘いをすまし顔でかわし、早川は二人の前に書類の束を置いて去っていった。後十五分ほどで始まる捜査会議の資料だろう。
声の届かないところまで早川が去った事を確かめ、神崎は濱田に向かって低い声で言った。
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