〔2〕

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 事件に関わる人間が未成年と知った途端、神崎の気持ちは暗くなる。  だが個人の感情など必要ない。捜査をし、証拠を固め、犯人を追及する。それが仕事だ。  使命感が、あったはずだ。正義感があったはずだった。  しかし正義とは、何だ?   この社会で、自分の居場所がわからなくなる。やりきれなさに、胸が痛む。  自分の仕事は何かの、誰かの役に立つのだろうか……。 「被害者は平井和美、十六歳。県立T高校の二年生。直接の死因は頭部を鈍器で殴られたための脳挫傷、他骨折十六カ所、内臓破裂……」  寒々しい会議室で淀みなく、機械的に書類を読み上げる声。ボードに貼られた凄惨な写真の数々は、何度となく目にしてきたはずだった。吐き気を催したことも、あったかも知れない。遠い昔に……。  背に当たるパイプ椅子が、やけに冷たく感じられる。ざわつく嫌悪感が椅子の為ではなく、血腥い写真のせいでもないことを、神崎は知っていた。  それは紛れもなく犯人に向けられたものであり、自分の原動力そのものなのだと信じたかった。     
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