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〔1〕  デスクに積み上げられた書類に顔を埋め、神崎広司は深い溜息をついた。今抱えている問題が、せめて仕事絡みなら気が楽なのだが。  千葉県警捜査一課に配属されて三年が経つ神崎は、二十八歳という年齢から来年は警部補昇進試験を受けるつもりだった。事件の少ない今のうちに、なるべく勉強しておきたいのだが身が入らない。師走である来月に入れば、寝る間も無いほど忙しくなるというのに……。  少し伸びかけの髪を掻き上げネクタイを緩めると、神崎は椅子に掛けてある上着を羽織った。暖房が効きすぎたこの部屋に比べ、肌寒い喫煙所に行けば頭を冷やすのに丁度良いだろう。抱える問題の打開策も、見つかるかもしれない。  交通課の若い婦警が、数人固まって開け放されたドアの向こうを通り過ぎる。同じ署内にいながら、何故か近づきがたい存在に感じるのは自分だけだろうか。 「若い子はいいねぇ。あいつら多分給湯室だな、ちょっと茶菓子でもいただいてくるか」  向かいのデスクの濱田が、おもむろに立ち上がった。若い女の子に遠慮がないのは年の功か? もしくは、同じくらいの年頃の娘がいるためか。 「おまえの分もいるだろう?」 「はあ、自分は別に……」     
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