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紙袋を片手に、老人の前に立つ。
ちょっと緊張する。
「あの、これ、良かったら」
老人は、痩せた顔に穏やかな微笑みを浮かべながら、
「おや、何でしょうか?」
と立ち上がった。
「ここの地下で売ってるんですけど、召し上がりませんか」
「それはそれは……申し訳ありません」
「お勧めなんです。どうぞ、味見してみてください」
老人の体に寄り添って、興味ありげに女の子たちが僕を見つめる。初めて人間を見た野性動物みたいだ。眼が水のように澄んでいる。
服装はいつもと同じ、ふわふわのダウンコート。売り場からはよく見えなかったけれど、二人とも小さなピンクのポシェットを肩から下げており、俺がそばにいる間、その紐をぎゅっと握りしめていた。
彼らからは確かに甘い匂いがした。
ラムレーズン、と松村さんは言っていた。確かに、鼻孔からというよりも、胸の深いところからゆったりと香ってくるような香りだ。
老人が紙袋を開け、女の子たちに手渡す。女の子たちは、ふかふかの肉まんを両手にかかげ持ち、
「あつーい」
と笑いあった。
「やけどしないように、ゆっくり食べて」
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