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「夜の仕事って、食事のタイミングも乱れがちだしね。昼を抜くくらい、平気だったんじゃないかな。甘い匂いも、母親の香水だったのかも」
なるほど。社長や生き霊よりは現実味がある。
母親がプレゼントを買うということなのだろう。親子は、売り場をゆったりと歩いて品定めをしている。
イブの日曜ということもあって、デパート内はかなり混雑している。人いきれで、蒸し暑いほどだ。大型の玩具が飛ぶように売れ、倉庫と売り場をかけずり回る。
段ボールを片づけて戻ってくると、
「すみません」
と呼び止められた。大きな瞳にグレーのコート。あの母親だ。彼女も例の甘い匂いに包まれている。
「は、ハイっ」
「この辺に、ピンクのポシェット、落ちてませんでしたか?」
美しい眉を下げ、困り果てた様子だ。あの女の子のどちらかが、落としてしまったのだろう。見ると、彼女のコートの陰から、ひとりの女の子が瞳に涙をいっぱい貯めて、俺を見ている。もうひとりの子は、自分のポシェットをぎゅっと握り、しくしく泣いている。もらい泣きのようだ。
「ええっと……届いているかもしれないので、すぐに確認してまいります。こちらのお嬢様と同じポシェットですか?」
「はい、まったく同じです」
「中には何が?」
「それが、実は……」
母親は言いにくそうに語尾を濁した。
「まるいの」
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